| ■これから「恋」の話をしよう■
 ※現パロで、雷蔵が女の子になっています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 放課後、日も暮れかかるころ。鉢屋三郎は教室へと向かっていた。
 
 友人のPSPを教室に忘れてきてしまったからである。パクられたらどうするんだすぐに取って来い! と友人が涙目で叫ぶから、仕方なく教室へと戻っているのだ。
 
 グラウンドからは運動部の元気な声が聞こえてくるが、校舎にはひとけが全く無い。
 
 あーあ、めんどくせえな。
 
 100%自分が悪い癖に心の中で毒づきながら、教室の扉を乱暴に開ける。そうしたら、誰もいないと思っていた室内に、ひとりの女子生徒が立っていた。
 
 ポニーテール。中肉中背。スカートは膝丈。黒のハイソックス。化粧はしない。アクセサリー類もつけない。隣の席の、ふわさんである。と言っても、「次って数学だっけ」「そうだよ」くらいの会話しか交わしたことがないので、彼女のことはよく知らなかった。
 
 「ふわさん?」
 
 三郎は首を傾げた。ふわさんはびっくりしたようにこちらを向き、突然、
 
 「いやっ、違うから!」
 
 と言った。何を言っているんだこの女は、と思ったところで、彼女の手にピンクの封筒が握られていることに気が付いた。
 
 「ああ……誰かにラブレター渡すところに、運悪くおれが来ちゃった、みたいな?」
 
 「い、いや、だから違うんだって!」
 
 ふわさんは、顔を赤くして首をぶんぶん横に振る。三郎は、そんな彼女に近付き、自分の机の中を覗き込んだ。
 
 「おれ、PSP取りに来ただけだし」
 
 友人のPSPは、ちゃんと机の中に残っていた。三郎はそれを取り出し、肩にかけていた鞄の中に放り込んだ。するとふわさんは、ますます必死になってこう言った。
 
 「違うって! これは、わたしの机の上に置いてあっただけで!」
 
 「ふわさん、やるねえ」
 
 「いやいや、いやいやいや! これよく見て。ピンクでしょう」
 
 ふわさんは、三郎の眼前に封筒を突きつけた。彼女の言うとおり、ピンクである。
 
 「ピンクだね」
 
 「しかも、裏はしっかり糊付けされてる上に、チェブラーシカのシールまで貼ってあるんだよ。男子って、こんなこと、する?」
 
 「そんじゃあ、女子からの手紙なんじゃないの。ふわさん、ますますやるねえ」
 
 「えええええ」
 
 そんなの困る、と続けてふわさんは泣きそうな顔になった。
 
 「良いじゃん別に、女子からのラブレターでも。嫌われてるより、好かれてる方がいいっしょ」
 
 「で、でも、間違いかもしれないじゃない。誰かが、うっかりわたしの席に置いちゃったのかも。名前も何も書いてないし、どうしようかと思って……」
 
 「開けてみたら?」
 
 「だけど間違いだったら、中見ちゃうなんて失礼だし……」
 
 「でも、開けないことには、差出人も宛先も分からないだろ」
 
 「うーん……」
 
 「ま、おれはどっちでも良いけど」
 
 そう告げて、早々に教室から出ようとしたら、
 
 「そうだね、開けよう」
 
 そんな言葉と共にビッリーーーという豪快な音が響いて、三郎はふわさんの方を見た。彼女が素手で思い切り封筒を引きちぎっているところであった。
 
 「あ、便箋ちょっと破けちゃった……」
 
 ふわさんは目をぱちぱちさせた。それまで散々、ぐだぐだと迷っていた割には、思い切りの良すぎる行動である。三郎は面食らってしまった。あれっ、ふわさんって、こういうキャラなのか。ただにこにこしているだけの、個性のない女子だと思っていた。何だかイメージが違う。
 
 「……ふ、ふわさん。手でやったの」
 
 「だってハサミ持ってないし」
 
 「女って、プリクラ切るのに常にハサミ持ち歩いてるんだと思ってた」
 
 「プリはねー、わたし切るの下手だから、いっつも友達にやってもらってる」
 
 そう言って、ふわさんは大きく裂けた封筒の中から、便箋を取り出してガサガサと広げた。三郎は「へ、へえ……」としか言えなかった。
 
 「あっ!」
 
 ふわさんが声を引っ繰り返す。「どうしたの」と尋ねてみれば、彼女は便箋から視線を持ち上げ、この上なく気まずそうな顔をして三郎を見た。
 
 「これ、鉢屋宛だわ……」
 
 「へ?」
 
 まさか自分の名前が出て来るとは思わなかったので、三郎はきょとんとしてふわさんを見返した。
 
 「隣の席だし、間違えちゃったんだろうね……」
 
 「はあ」
 
 「あ、あの……これ、ちょっと、っていうか、結構、グチャってなっちゃったけど……」
 
 ふわさんは、おずおずと、封筒と便箋を三郎の前に差し出した。誰かが三郎に宛てて書いたと思われるラブレターは、確かに、結構、グチャッとなってしまっていた。
 
 「…………」
 
 三郎は、恐縮しきっているふわさんを見た。素手で封筒を引きちぎった、意外と雑でパワフルなことが判明したふわさんは、「ご、ごめん……!!」と身体を小さくしている。
 
 「ふわさん」
 
 「な……何でしょう」
 
 「おれ、きみになら抱かれても良いかも」
 
 「は……!?」
 
 あまりに驚いたのか、ふわさんは手の上に載せていたラブレターを思い切り握りつぶした。それを見て、三郎はより強く、抱かれても良い、と 思った。
 
 なんというか、まあ、これが彼らの恋路のはじまりであった。
 
 
 
 
 33分。ちょっとオーバーしました。
 タイトルの元ネタは「これから『正義』の話をしよう」という本です。
 ちなみに、どういう内容の本なのかは一切知りません。
 女の子になっても雷蔵はきっと雷蔵ですよね、という話!
 あと、女の子相手にも「抱かれても良い」って思っちゃう受気質の三郎(攻)が好きだなって思いました。
 何となく分かると思いますが、PSPの所持者は竹谷です。
 
 リク有難うございました!
 
 
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