■エピローグ■
起きて、朝食をしっかりと食べて、身支度を整えて通学鞄を肩に掛ける。
いつもよりも早い時間に、ぼくは家を出た。少しひんやりとした空気が肌を撫でる。ぼくは口を大きく開けて、冷たい空気を胸一杯に吸い込んだ。何となく、気持ちが引き締まる気がする。
ぼくは学校へと向かう道から逸れて別方向へと進んだ。いくらか急ぎ足で、狭い歩道をずんずん歩く。立派な門構えの大きい家の前を通ったら、中から甲高い犬の鳴き声が聞こえた。ちらりと門の中を横目で見やると、小型犬の尻尾だけが見えた。
住宅街をひた進み、とある二階建ての一軒家の前でぼくは立ち止まった。表札には「竹谷」とある。八左ヱ門の家である。小学校の頃から、何度も訪れている場所だ。
表札の隣に据えられた、チャイムのボタンを押す。ぐぐっと、力を込めて。そうしないと、鳴らないのだ。ぼくが中学に上がる頃からそんなだったけれど、修理はしないのだろうか。
すぐに、インターホンから「はぁい」と女性の声が聞こえてきた。八左ヱ門の母さんだ。ぼくは少し身を屈めて、インターホンに向かって声をかけた。
「あ、おはようございます」
「ああ、雷蔵くん。ちょっと待ってね」
名前を言わなくても誰だか分かってくれた。流石である。ぼくは顔を上に向けて、道に面している二階の窓を見詰めた。そこが、八左ヱ門の部屋なのだ。
程なくしてその窓が、がらりと勢いよく開いた。
「雷蔵!?」
ぼさぼさ頭の八左ヱ門が、顔を出す。まだ制服に着替えていないみたいで、黒いTシャツ姿だった。
「おはよーう。早くにごめん。一緒に学校行こうと思って」
手を振りながら声をかけると、八左ヱ門は真顔になり口を閉じた。そのまま数秒黙ってから、「分かった、すぐ行く!」と言って部屋に引っ込んだ。
「お待たせ」
三分もしない内に、制服姿の八左ヱ門が飛び出してくる。本当に、すぐだった。よっぽど急いでくれたのか、髪の毛があちこちに跳ねたままだ。 ぼくは少し、申し訳無くなった。もうちょっと、遅く来るべきだった。
「ごめんね、急に来ちゃって」
「良いよ、良いよ。ていうか……」
八左ヱ門はそこで言葉を切り、がちゃんと門を閉めた。それからぼくの方に顔を寄せて、小さな声でこう言った。
「昨日、さぼったよな?」
責める口調ではなく、純粋に確認がしたい、という感じだった。ぼくの頬はむずむずっとなった。人から言われると、何となくくすぐったい。
「あはは。うん、さぼった。人生初」
ぼくたちは、話しながら歩き出した。八左ヱ門は「はあー……」と、感心したようにぼくを見た。ますます、くすぐったい。
「びっくりしたわあ……。三郎だけなら何となく分かるけど、まさか雷蔵もさぼるとは」
「良い経験したよ。……あの、先生、何か言ってた?」
「いや、何も。お前だったら、具合が悪くて早退しました、って言えば追及されないと思うぜ」
「……普段、良い子にしといて良かった」
そこまで話したところで、児童公園の前に到着した。砂場とすべり台、それにブランコがあるだけの小さな公園で、見たところ誰もいないようだった。ぼくは、足を止めた。そして静かに深呼吸をする。この場所こそが、今日のぼくの目的地なのだ。
「八左ヱ門。ちょっとだけ公園寄らない? まだ時間あるし」
ぼくは公園の入り口を指さした。八左ヱ門は目を瞬かせて、「おお、良いけど」と首を縦に振った。頷きはしたけれど、どうしてぼくがそんなことを言い出したのか、腑に落ちていない様子だった。それに対する答えは後回しにして、ぼくは公園の中に足を踏み入れた。
「この公園、小学生のときは毎日来てたよね」
狭い砂場の横を通り過ぎながら、ぼくは言った。前日に誰かが作ったらしい砂の山がそのままになっていて、胸が温かくなった。
この公園は、小さい頃に八左ヱ門と多くの時間を過ごした思い出の場所なのだった。此処に来るのは、何年ぶりだろう。知らない間にすべり台のペンキが塗り替えられていて、真新しい水色になっていた。ぼくたちが現役だった頃は、朽ちかけたオレンジだった気がする。
「そうそう。水鉄砲、流行ったよなあ」
八左ヱ門は、笑いながら言った。色々なことを思い出して、ぼくも微笑んだ。
「八左ヱ門、ブランコに乗って撃ちまくるのに、はまってたよね」
ぼくはブランコの柵をまたぎ越えて、チェーンに手を触れた。そのまま座ってみようかなと思ったけれど、砂まみれだったので、やめておいた。
「あー、はまった、はまった。最終的にブランコから落っこちて頭から血が出て、親に死ぬほど怒られたっていうアレな」
八左ヱ門は、からからと笑った。無邪気に笑っているが、実際は頭を三針縫う大怪我で、一緒にいたぼくは大泣きした記憶がある。だけど本人にとっては、軽く笑い飛ばせるくらいの思い出らしい。
「ぼくは何度も、危ないからやめなよって言ったのに、聞かないんだもんなあ」
苦笑して、ぼくはチェーンから手を離した。鉄の匂いが鼻をかすめる。この匂いも、懐かしい。
……さあ、そろそろ本題に入ろうかな。
「それでさ、八左ヱ門」
声のトーンを変えず、世間話でもするみたいな口調でぼくは切り出した。八左ヱ門も、ごくごく軽い調子で「うん」と返す。今の彼はとても無防備で、警戒している様子は全く無かった。ぼくは迷わずに、こう続けた。
「ぼく、思い出したよ」
「うん? 思い出した……?」
「ろ組だったよね、ぼくら。……とか、そういうの、全部」
「…………」
八左ヱ門の顔から笑みが消えた。彼はぼくの顔を、まじまじと見詰める。ぼくはそれを真正面から受け止め、なるべく普段どおりの表情で笑ってみせた。
「思い出したよ、八左ヱ門」
「雷……っ」
八左ヱ門は、言葉を詰まらせた。次いで、彼の両目に透明な涙の膜が現れる。あっと思う間もなく、それは雫になって彼の瞳からどんどん溢れ出した。
八左ヱ門は、体当たりするみたいにしてぼくに抱きついてきた。結構な勢いで衝突したので身体がふらつきかけたが、両足を踏ん張って堪えた。
「やっと思い出したのかよ……っ おれ、おれ……っ、ずっと言いたかったけど、言えなかっ……」
涙でぶわぶわになった声で言って、八左ヱ門はぼくにしがみついた。ぼくは八左ヱ門の背に手を回しながら、「うん、うん。思い出した」と言った。
「うっ、ううっ、う、ぁ……っ」
「八左ヱ門、去年の夏くらいからずっと知ってたんだよね? それで悩んでたよね……? 今になって思えば、八左ヱ門はいっぱいサイン出してたのに、全然気付かなくて……ごめんね」
「っう、ぅ……っ!」
掠れた八左ヱ門の嗚咽が耳に染み込んでゆく。彼はぼくの肩に額を押しつけて泣き、ぼくは彼の背中をゆるゆるとさすった。ぼくたちはしばらくの間、そうしていた。
「……あー、やばいわ。朝から号泣とか、無いわ」
数分後。ぼくたちはブランコの柵に並んで腰掛けていた。ようやく泣き止んだ八左ヱ門は、疲れ切った表情で息を吐き出した。水で濡らしたぼくのハンカチを手にして、赤く腫れ上がった瞼を軽く押さえる。
「……ご、ごめんね……? 大丈夫?」
まさかあそこまで激しく泣かれるとは思わなかったので、ぼくは罪悪感でいっぱいだった。これから学校に行くところなのに、大丈夫だろうか。 放課後にするべきだったかな。だけどどうしても、八左ヱ門にはすぐ伝えたかったのだ。
「兵助や勘右衛門のときは大丈夫だったけど、雷蔵が思い出したって何か……ちょっと、我慢出来なかったわ……」
八左ヱ門は小声で言って、鼻をすすった。
「……兵助や勘右衛門も、全部知ってるんだよね?」
尋ねると、彼はこくんと頷いた。もう、隠したり誤魔化したりはしなかった。
「うん、知ってる。……あ、勘右衛門は全部じゃないんだ。今も少しずつ思い出してる段階。兵助は全部。おれも……きちんとは確認してないけど、多分全部、かな」
「そっか……」
やっぱり、みんな知ってたんだ……と思うと、何とも複雑な心持ちになった。だけど怒りだとか憎しみだとか、そういった感情は湧いてこなかった。今はただ、ほっとしている。ぼくもやっと、彼らと同じ場所に立つことが出来たのだ。
「おれ、雷蔵に謝らないと……」
「うん?」
「お前が思い出しそうになってて、悩んでるの分かってた。でも、言えなかったんだよ……ごめんな」
八左ヱ門は、ぼくに向かって頭を下げた。その話になると、、少しだけぼくの胸に苦みが走る。
「いや……、うん。そこがちょっと分かんなくて……。何であんな頑なに、ぼくには言ってくれなかったの?」
話してくれたら、ぼくはもっと早く昔のことを思い出していたかもしれないのに……と思いつつ、訊いた。すると八左ヱ門は、ばつの悪そうな顔にになってぼくから視線をそらした。
「雷蔵は覚えてないみたいだけどさ……。おれ、お前に一回、昔の話をぶちまけたことがあるんだよ。あの、学校の池で。そしたらお前、真っ青になって倒れちゃってさ……」
「え、あ。それってあの、ぼくが早退したときの?」
驚きのあまり、声が上擦ってしまった。もう、ほとんど忘れかけていた出来事だ。ぼくは一度、原因不明の失神で早退をしたことがある。そのときに、八左ヱ門から昔の話を聞いていた? うわっ本当に、全く記憶に残っていない。何で倒れたんだろう、と不思議に思ってはいたけれど、まさかその裏にこんな真相が隠れていたとは。
「そう。まさかそんなことになると思わなくて……。本当に、あのときは、ごめん」
「いや、全然覚えてないし、謝ることじゃ……」
ぼくは首を振った。それと同時に、ここ最近のあれこれは、八左ヱ門がぼくに昔の話をぶちまけたことが引き金になってたのかな、と想像した。ぼくは一切覚えていないけれど、ぼくの心の底の底の底には、八左ヱ門の話が残っていたんじゃないだろうか。
何だ。そっか。そういうことだったのか。納得したら、心がまたひとつ軽くなった。
「……おれ、お前が倒れたのがすげえ怖くて……。だからお前や三郎には昔の話はしないでおこうって、兵助や勘右衛門と相談して決めたんだよ」
「そうだったんだ……はああ、成程」
「ほんと、ごめんな……」
「いや、良いよ良いよ。何だかんだ、元気だし」
そう言ってぼくは、八左ヱ門の肩を叩いた。そうしたら、八左ヱ門は眉間に皺を寄せて口をぎゅっと結んだ。あっやばい、また泣いてしまうかもしれない。八左ヱ門はぼくから顔をそむけて、また鼻をすすった。頑張れ、八左ヱ門。的外れかもしれないけれど、ぼくは心の中で彼にエールを送った。
「……三郎は、思い出してないのか」
どうにか持ち直した八左ヱ門は、ぼくにそう尋ねた。ぼくはすぐに答える。
「思い出してないよ。全く。びっくりするくらい、覚えてない」
「そっか……」
八左ヱ門は、力のない相槌を打った。安堵しているのか残念がっているのか、どちらだろう。両方かもしれない。
「でも、この、ぜ……」
ぼくはそこまで言って、口を閉じた。それからもう一度、口を開く。
「ぜ……、ぜ……」
ぼくは何度もつっかえた。どうしても、前世、という単語が言えないのだった。それを言おうとすると、顔がどんどん熱くなる。頭で考えるのは平気だけれど、口に出そうとすると駄目だった。
ぜ、ぜ、と繰り返すぼくに、八左ヱ門はしみじみと頷いた。
「……おれ、お前が今言おうとしてる単語、分かるぜ。それ、言いにくいよな……」
「はっ……恥ずかしいよね!?」
「恥ずかしい! 死ぬほど恥ずかしい!」
「だよね!!」
「だよな!!」
ぼくたちはどちらからともなく右手を出して、力強く握手をしていた。何だろう、このテンション。だけど、共感してくれて嬉しい。高校一年生の男子には、「前世」
というワードは非常に難易度が高いのだ。
ぼくは握手をほどき、ひとつ咳払いをした。このままでは話が進まないので、勇気を振り絞る。
「……で、まあ、その、ぜ……ぜんせのね、ことについて、八左ヱ門たちがぼくたちの為を思って黙っててくれたことは、分かったよ」
若干噛みながらも、ぼくはちゃんと言えた。八左ヱ門は、何も言わずに聞いてくれている。うん、大丈夫だ。
「でも、その気遣いを裏切って申し訳ないけど、ぼくは、三郎に全部話そうと思うんだ」
記憶が戻った直後から考えていたことを、八左ヱ門に告げた。八左ヱ門は眉を下げ、困り顔になった。
「……話す、のか」
「うん。ひとりだけ知らないってのも気の毒だし」
「全然知らないんだよな? 言っても信じないんじゃないか」
「でも、三郎に隠しごとはしたくないんだ」
ぼくは、三郎に対して誠実でありたかった。だから、隠しごとはしたくない。彼が信じるか信じないか、どう思うかは、また別問題である。
「何かその言い方、付き合ってるみてえ」
八左ヱ門はブランコの柵を軽く掴んで、笑った。多分、ぼくが冗談で言っているのだと思ったのだろう。だからぼくは、さらっと、こう返した。
「あ、うん。そうなんだ。付き合ってるんだよ、ぼくら」
「え?」
「今まで黙っててごめん……あ、でも八左ヱ門もぼくに隠しごとしてたから、おあいこかな」
「だ、ちょっ……、えっ……」
八左ヱ門は変な声をあげて、ぎこちなく口を開けたり閉じたりした。やっと報告が出来て、ぼくは更に胸が軽くなった。いやあ、言えて良かった。
八左ヱ門は何度か「えっ」と「ちょっ」を繰り返した後、勢いよく空を仰いだ。ぼくも、つられて上を見た。良い天気だった。青空に、筋状の雲が連なっていて、きれいだ。
「っああー、卑怯だわー! 記憶の話でいっぱいいっぱいになってるこのタイミングでカミングアウトされても、処理出来ないわー! ものっすげえ大事件なのに、流しちゃいそうだわー!」
空に向かって八左ヱ門は吠えた。ぼくは「はは、狙い通りだ」と笑う。八左ヱ門はぼくの方を見て、不服そうにくちびるを尖らせた。
「きったねえ……。そういえばお前は、そういうの、得意だったもんな……」
「そうだっけ」
「こいつ、忍者だわあ……」
「ははは」
ぼくは肩を揺らして笑う。そうしたら八左ヱ門は、声の調子を落としてこう続けた。
「……おれが号泣したこと、みんなには内緒な」
それは、大事な話だ。ぼくは真面目な顔で頷いた。三郎にも、これだけは言うわけにはいかない。男の名誉に関わることは、黙っていても不誠実にはならないのだ。
「勿論、内緒にしとくよ。……懐かしいね、ふたりだけの秘密」
小さい頃は、秘密基地の場所やら好きな女の子の名前やら、ふたりだけの秘密が沢山あった。ぼくはそれが懐かしくて、目を細めた。八左ヱ門も「ほんとだな」と言って、照れくさそうに笑った。瞼の腫れは、だいぶ引いたようだった。
「じゃあ、そろそろ学校行こうか……って、あ、三郎からメール来てる。着信も」
時間を見るために携帯電話を取り出して、ぼくは少しぎょっとしてしまった。三郎からのメールが三通に、着信が五件。えっ、朝から何があったのだろう。メールを確認しようとしたら、遠慮がちに八左ヱ門が声をかけてくる。
「ちょっとまだ、どういうテンションで対応すべきか分かんないんだけど……冷やかした方が良い?」
「普通で良いよー。あっまた電話かかってきた。もしもしー?」
ちょうど三郎から着信が入ったので、ぼくは通話ボタンを押して電話を耳に押し当てた。
『雷蔵、今どこっ?』
少し怒っているような、三郎の声が耳に飛び込んでくる。そんな朝から怒られる覚えは無いのだけど……と思いつつ、 「今? 公園だけど……」と答えた。
『公園っ? 何処の? おれ、一緒に学校行こうと思って、雷蔵の家まで迎えに行ったのに!』
「あっそうなの? タイミング悪かったなー。久々に、八左ヱ門と公園で遊んでたんだよね」
『はあ!?』
三郎が大きな声を出したので、ぼくは咄嗟に電話を耳から離した。早口で何か言っているみたいだったけれど、ぼくはそれを聞かずに言葉をかぶせた。
「じゃあ、三丁目交差点のところのファミマ前で待ち合わせしようよ。ぼくたちも、今から行くから」
『八左ヱ門と公園で遊ぶって、何? 何やってんの?』
「ふふ、それは秘密だよ」
笑い声とともに、一方的に電話を切ってやった。そのまま携帯電話を制服のポケットに突っ込んで、ブランコの柵から腰を持ち上げる。
「……なんとなく聞こえたけど、おれを巻き込むなよ」
八左ヱ門は眉を寄せて言った。ぼくは笑って、通学鞄を肩に掛け直した。
「だって、どう説明しても変なやきもち焼くだろうし」
「めんどくせえなー、あいつ」
「そうなんだ。物凄く、めんどくさいんだよ」
そんな話をしながら、ぼくたちは公園を出た。八左ヱ門はすっかり普段通りの様子に戻っていた。それどころか、大きな欠伸なんかしている。八左ヱ門らしい。それを見て、ぼくはほっとした。
早く、三郎を迎えに行ってやろうと思った。そうでないと、今度はあいつが泣いてしまうかもしれない。
また笑いがこみ上げてきたので下を向くと、何故か右目から涙がぼろっとこぼれて、ぼくの手の上に落ちた。
「ん?」
前兆も何もなく、突然のことだったので驚いて、ぼくは目元に手を持って行った。右目だけが濡れている。だけど、それ以上涙は出て来なかった。一粒、しずくが落ちただけだった。
何だこれ……と思っていたら、隣を歩く八左ヱ門が「あっ」と声をあげた。
「あれ、三郎じゃね?」
ぼくは顔を上げて、前を見た。まっすぐ伸びた道の向こうから、こちらに走ってくる人物が見える。確かに、三郎だ。三郎だった。ファミマで待っていてと言ったのに、待ちきれなかったのだろうか。まったく、なんてめんどくさい男だろう!
集団登校中の小学生たちをぐんぐん追い抜いて、三郎がこちらに走ってくる。どんどん、その姿が大きくなる。
「三郎!」
何となくそうしないといけない気になって、ぼくは両手を広げて三郎を迎えた。
息を切らせ走る三郎の目が、ぼくを見てきらきらっと輝いた。
……多分ぼくの目も、彼に負けないくらいきらめいているのだと思う。
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最後まで読んで下さって、有難うございました!
三郎編「ザ・フール(仮題)」に続きます。
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