第三十六話「ふたつの光(前編)」

学校で真面目に授業を受ける、不破雷蔵。
しかし、頭に浮かぶのは三郎のことばかりだった。
一体、彼は今どうしているのだろう。ちゃんとご飯は食べてるかな。意外と寂しがり屋だけど、夜は眠れているかな。

不安と心配は募るばかりだった。
しかし、仲間たちには「心配なのは分かるが、あまり三郎のことばかりを考えすぎるな」と言われていた。そのことに囚われていると、自分の心を見失うだけだ……と。

確かに、ゴネンジャーの中でリストバンドが光っていないのは雷蔵だけだったし、三郎のことを気にするあまり勉強にも戦闘にも身が入っていないのも事実だった。しかし雷蔵は、頭から三郎を追い払うことが出来ないのだった。

その日の帰り道、雷蔵はひとりでいるところを仮面をつけた敵に襲撃される。すぐに変身し、応戦する雷蔵。
敵は強く、雷蔵は終始押されていた。しかしそのとき、雷蔵ははっとあることに気が付く。

「もしかして……三郎……?」

そう言った瞬間、敵の動きが鈍った。そこで雷蔵は確信する。これは、三郎だと!

駆け寄ろうとする雷蔵に、三郎は攻撃を仕掛ける。辛うじて避けた雷蔵は「どうして……」と呆然とする。

「不破……っ、雷蔵……きみを、おまえを……ころす……っ」

苦しそうに呻く三郎。雷蔵は言葉を失った。そこに、他のゴネンジャーが駆けつけた。雷蔵のピンチに変身しようとする仲間たちへ、雷蔵は叫ぶ。

「待って! 彼は三郎なんだ! ここは、ぼくに任せてくれ!」

驚くゴネンジャーの面々をよそに、雷蔵は仮面をつけた三郎と向かい合う。そして、彼は自分の思いを三郎に語った。

初めて出会ったときの戸惑い、しかしすぐに彼に友情を感じたこと、共に戦って頼もしかったこと、三郎との他愛の無い会話や触れ合いが、日々の癒しになっていたこと、突然いなくなって悲しかったこと、どんな形であれ再会出来て嬉しかったこと、そして、今でも三郎を信じていること……。

三郎は苦しそうに雷蔵の話を訊いていた。心が、動いているのである。しかし彼は山本シナの命令に逆らえない。懐から刀を取り出すと、雷蔵めがけて振り下ろした。

「雷蔵っ!!」

八左ヱ門たちが叫ぶ。しかし雷蔵は避けようとしない。じっと、三郎の目を見詰めるのみである。三郎の瞳が揺れる。そのとき!

雷蔵のリストバンドがまばゆい光を放った!
彼の、三郎に対する信頼の心が力を解き放ったのである!!

三郎の刀も光に包まれ、雷蔵を攻撃することが出来ない。地面に落ちる刀。
光の中、雷蔵は三郎に手を差し伸べる。三郎は震えながら、その手に触れようとした。そのときである。

黒い霧が辺りを覆い、その中から山本シナが現れた。

「失敗したのね、三郎。……仕方の無い子」

冷たい口調でシナは言う。その威圧感と迫力、全身にみなぎる強大な力にゴネンジャーは恐怖を覚えた。山本シナに会うのは初めてではない。しかしこれこそが、彼女の真の姿なのだということを思い知った。

「良いわ。貴方は帰ってなさい」

シナがそう言うと、黒い霧が三郎の身体を包み始めた。雷蔵は慌てて「三郎!」と彼に向かって手を伸ばした。

「雷っ……」

三郎は、雷蔵の手を掴もうとした。しかし、指先が触れ合う寸前に三郎は黒い霧の中に消えてしまったのだった。

「やれやれ、出来の悪い部下を持つと大変。……仕方が無いから、わたしが三郎の代わりをやるわね」

そう言って、シナは悠然と微笑んだ。

「不破雷蔵。お前を殺すわ」


……その頃三郎はと言うと、卍の基地に送り返されていた。
暗い部屋に投げ出される三郎。それと同時に、仮面が外れて床に落ちた。

「雷蔵……雷蔵っ……」

涙声で呟く三郎の顔には目も鼻も口もなく、洞穴のように真っ暗な空間があるだけだった。

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第三十七話「ふたつの光(後編)」

山本シナが雷蔵に襲いかかる。彼女は絶望的なまでに強く、それぞれの心を解放してパワーアップしたはずのゴネンジャーの攻撃も、易々と弾かれてしまう。

シナは、執拗に雷蔵ばかりを攻撃する。どんどん傷ついてゆく雷蔵。

……三郎はその光景を、卍の基地から見詰めていた。
助けたいという気持ちと、そんな資格などないという気持ちの狭間で彼は苦しんだ。そもそも、シナの命令に背くことなど出来ないのだ。

葛藤する三郎の前に、何者かが現れる。
それは雷蔵だった。
……いや、雷蔵の姿をしていた頃の自分であった。

「雷蔵の顔……。シナに作られた顔……。作られた……おれには顔が無い……」

三郎は実体を持たない自分の顔に触れた。
鏡の中では、ゴネンジャーがシナと戦っている。
彼らはみんな、口々に「三郎を返せ!」と言う。その度に、三郎の胸は痛んだ。

「返せも何も……あの子はわたしが作ったものなのよ? 顔も、心も何も持たない……わたしの忠実なお人形なんだから」

シナはせせら笑う。それに、ぼろぼろになった雷蔵が反論する。

「三郎はものじゃない! ぼくたちの仲間だ!!」

それを聞いたとき、三郎の中で何かが弾けた。
三郎は顔を上げる。目の前には、雷蔵の顔をした自分が立っている。
彼は笑って、こちらに手を伸ばした。
とある決意を胸に、三郎はその手に触れた。すると目の前が白く輝き……。


……その頃、地上ではゴネンジャーとシナの死闘が続いていた。
しかしシナの力は圧倒的で、ゴネンジャーは防戦もままならない状態だった。

そんな中、雷蔵が肌身離さず持っていた三郎のリストバンドをシナに発見され、彼女にそれを奪われてしまう。

「やめろっ……それを返せ……!」

「あら……大事なものなのね? それじゃあ、燃やしてしまおうかしら」

シナはそう言って、リストバンドを目の前に掲げた。

「やめろぉ……っ!!」

雷蔵の叫びが周囲に響き渡った瞬間、何者かがシナに斬りかかった! 不意を突かれたシナはどうにか攻撃をかわしたが、リストバンドを取り落としてしまう。

「お前……っ」

今まで余裕だったシナの表情が歪む。
彼女に斬りかかったのは、鉢屋三郎だったのだ!
しかも彼は、不破雷蔵の姿をしていたのだった。

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第三十八話「目覚めた暗黒の力」

「どういうこと……。どうして、わたしの命令に背くの……人形のくせに、裏切るつもり……!?」

歯を食いしばるシナをよそに、三郎はゆっくりと、雷蔵が大切に持っていたリストバンドを拾い上げた。

「確かに、おれには顔が無い……。だけどそれは逆に言えば、何にでもなれるってことだ。最初は作りものだったけれど、おれは今、自分の意志でこの顔を選んだんだ」

三郎は、自分の顔に触れた。不破雷蔵と、そっくりの顔である。
これまで三郎は、シナの命令通りに動いていた。雷蔵の姿に化け、ゴネンジャーに潜り込んだのも、そもそもはシナの命令だった。

「おれが望めば、何者にだってなれる。……きみたちの、仲間にも……」

彼は今、初めて自分の心で願ったのだ。
今までどおり、ゴネンジャーの一員でありたいと。

「……また、仲間になれるかな……」

三郎は雷蔵たちに向かって、小さな声で言った。
雷蔵はふらふらと立ち上がり、しっかりと三郎の手を握った。
そして、八左ヱ門が泣きながら叫ぶ。

「当たり前じゃないか!! おれたちはずっと仲間だ!!」

勘右衛門と兵助も、涙を流しながら頷いていた。
それを見て、三郎の目にも涙が浮かんだ。

その瞬間、三郎のリストバンドが輝きだした! 三郎の、友情の心が解き放たれたのである!

「三郎……三郎、よくも裏切ったわね……」

シナは声を震わせた。それとともに、大地も震える。空が闇で覆われていった。

「ふふ……ふふふ……怒りが湧いてくる……この怒りの黒い力で……戸部新左衛門が目覚めるわ……起こしに……行かなくちゃ……」

シナはそう言って、闇の中に消えた。戦いで疲れ果てたゴネンジャーは、追うことが出来なかった。

ついに戸部新左衛門が目覚める……。
新たな脅威の誕生である。が……。

「三郎……」

「みんな……」

そこまで言って、彼らは無言で抱き合った。
何はともあれ、ゴネンジャーがふたたび全員揃ったのである。 いやー良かった良かった!

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第三十九話「お祝いをしよう」

色々と不安なことはあるけれど、三郎が帰ってきたことはめでたいので、三郎復帰記念のパーティーをおこなうゴネンジャー。
場所は兵助の家。メニューはやっぱり豆乳鍋である。

最初は照れて遠慮していた三郎だったが、宴が始まると何だかんだ楽しくなってきた。みんな笑っているし隣には雷蔵がいるし、やっぱり自分の居場所は此処だと確信し、安堵と喜びでちょっと泣きそうになる三郎。

そんな良いシーンの途中で突然、鍋の中からドシャーンとマロニーに手足を生やしたような敵が現れた! 前にもこんなことが無かっただろうか! デジャヴにも程がある!

マロニー怪人は、三郎を連れ戻しに来たという。ゴネンジャーたちの間に緊張が走る。しかも、場所がまた兵助の家である。
此処で暴れられたら、ちょっとシャレにならない。
前回、土鍋型の敵が現れたときは表に出てくれたが、今回はそんな気遣いを見せてくれるのかどうか……。

「オラオラ、表に出やがれゴネンジャー!」

あっやっぱり今回も気遣ってくれた!!

胸をあたたかくしながら、近所の空き地に移動するゴネンジャー。そこで変身し、さあ戦闘開始だ!

全員の心が解放された今、マロニー怪人など敵ではない。
特に二度も豆乳鍋を駄目にされた兵助の怒りは凄まじく、「あれっ、こいつ誠実担当だよな……?」と仲間たちが心配になるくらいの勢いで、敵をボコり尽くした。

ピンチに陥ったマロニー怪人は、仲間を呼んだ! 白菜型の怪人である!

「それがどうした!」

そう言って、兵助はふたりをまとめて吹っ飛ばした。
他の四人は完全に出番無しであった。でもまあ……たまにはこんなのも良いかーなんて話していたら、空が黒く染まり始めた!

「これは、まさか……」

嫌な予感が、ゴネンジャーの胸に走る。

その嫌な予感は大当たりであった。
卍の基地で、とうとう戸部新左ヱ門が目をさましたのだ……!
殻を破り、ゆっくりと外の世界に足を踏み出す戸部新左ヱ門。

「お目覚めはいかがかしら? 生物兵器・戸部新左ヱ門……」

妖艶に笑う山本シナ!
最強の敵の登場である!


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第四十話「闇闇闇の攻略法」

「戸部新左ヱ門が目を覚ました。しかし、戸部は空腹では動けない。おれたちの前に姿を現すまで、もう少し時間がかかるだろう」

記憶を取り戻した三郎の解説どおり、しばらくは何事もなく日々が過ぎた。しかし、空の色だけは不気味に黒いままであった。卍の、闇の力が強大になっている証拠である。

近いうちに訪れるであろう戸部新左ヱ門、そして山本シナとの決戦の日の為に特訓するゴネンジャー。

そこに、黒々した闇をまとったひとりの敵が現れた! 以前にも戦ったことがある、斜堂影麿である。

斜堂は闇を操る邪忍衆。この黒い空の下で活き活きとし、テンションも多少高めであった。
格段に上がった戦闘力も勿論だが、その見慣れないテンションに少し引いてしまって、精彩を欠くゴネンジャー。そして、じりじり押されていくゴネンジャー。

このままではヤバい。そのとき、三郎がこんなことを言い出した!

「おい八左ヱ門、靴下を脱げ!」

八左ヱ門は「何言ってんだこいつ」と思ったが、三郎が真顔で迫ってくるので、仕方無く靴下を脱いだ。すると三郎は、それを指先でつまんで思い切り斜堂に投げつけた。靴下は、斜堂の顔面にクリーンヒットした。

「ひいいい! ばっちいぃい!!」

のけぞって苦しむ斜堂影麿。三郎が「今だ!!」と号令をかけ、ゴネンジャーは一斉に斜堂をボコり、見事勝利を収めた!

「斜堂影麿は潔癖症だから、汚いものが弱点なんだ」

ドヤ顔で決める三郎。
仲間たちは拍手をし、「三郎が昔卍にいたお陰で、情報が役に立つな!!」と絶賛する。

「何か、納得いかないんだけど……」

と、ひとり憮然とする八左ヱ門であった。
頑張れ八左ヱ門! 負けるな八左ヱ門!
きっと、良いことあるよ!!

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