第三十一話「新たなる武器!!」
ゴネンジャーの面々は、相変わらず調子の出ない日々を送っていた。 あまりにグダグダなゴネンジャーを見かねて、お助け妖精のタキとタカが現れた!
「先輩たちがあまりに不甲斐ないので、パワーアップアイテムを持って来ました」
えっ、そういうのはもっと早めにくれよ……と全員が思ったが、言わなかった。 彼らもだいぶ「小刻みに新アイテムを出してグッズを販売しなければならない大人の事情」というものが分かってきたのだ。
普段、彼らは右手につけたリストバンドで変身している。 そして妖精たちが今回持って来たのは、左手用のリストバンドであった!!
「地味だな!!」
真っ先に叫んだのは、八左ヱ門だった。
確かに地味である。デザインは代わり映えしないし、変形も合体もしなければ、音だって出ない。
これを焦らす意味はあったのだろうかと、彼らは一様に首をひねった。 しかも、全員青色で色味が似ているので(特に、雷蔵のモーニング・グローリィと兵助のロンサールがややこしい)配布するのにもやたらと時間がかかった。
「あのこれ……三郎の分は無いのかな」
雷蔵が言いにくそうに口を開くと、全員が彼の方を見た。雷蔵は「もしあるなら、預かっておきたいのだけど……」と控え目に言った。一応持って来ていたタキは、三郎の分のリストバンドを雷蔵に託す。
リストバンドについて、アヤが面倒臭そうに説明してくれた。
「そのリストバンドは、それぞれの心の特性が目覚めたときに真の力を発揮します。勇気とか友情とか……。よくあるアレです。デ○モンとかダ○の大冒険みたいな」
「具体的な作品名出すのやめろよ!!」
「でも、おれにも分かるようにちょい古めの作品でたとえてくれて有難う!!」
八左ヱ門と勘右衛門は叫ぶが、その頃にはもうタキとアヤはいなかった。
そこに、敵が現れた!
誰のリストバンドも光ることなく、普通に倒すゴネンジャー!
このリストバンドは本当に光るのか……。
光ったとして、何か変わるのか……。
新たな疑問を胸に抱えつつ、ゴネンジャーは今日も行くのだった!
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第三十二話「勇気? 友情? それとも?」
ゴネンジャーの面々は、登校しながら「自分たちの、心の特性とは何なのか」を話し合っていた。
「おれは勇気だと思う。主人公的ポジションな!」
そう自信満々に宣言したのは、八左ヱ門だった。しかし、周りの反応は微妙なものだった。彼らは疑っていたのだ。アヤは「勇気とか友情とか」とは言ったが、そんな華々しい特性が自分たちにあてがわれているのだろうか……と。
勘右衛門は真面目な顔で言う。
「八左ヱ門は『中途半端なツッコミ』で兵助が『偏った知性』で雷蔵は『迷い癖』でおれが『懐古厨』とか……せいぜいそんなもんじゃないかな……」
そんな馬鹿な、とは誰も言えなかった。そうかもしれない、と思ったからだ。大体、ゴネンジャーはレッドやグリーンと言った鮮やかな色は与えられず、全員が青なのだ。今更、「勇気」「友情」「知性」などの派手な称号をもらっても困る。
「分かった……。じゃあおれ、もっとツッコミを磨くわ」
「おれは、もっと豆腐について調べとく」
「えっ、じゃあぼくは……ええと?」
「おれも、帰ったら初代スーパーマリオの最速クリア目指すわ」
四人の、それぞれの方向性が決まったところで、ユキとトモミが邪忍衆を引き連れて現れた!
「毎週毎週、お前ら何人おんねん!」
兎に角ツッコまねばという義務感に駆られ、エセくさいイントネーションの関西弁でツッコむ八左ヱ門。しかし、リストバンドはピクリとも反応しない。更に、場がシーンと静まりかえった! ユキとトモミは「突然何なのマジきもいんですけど」みたいな顔でこちらを見ている! 俗に言う、「ダダスベり」というやつである!
冷たい空気が、八左ヱ門の胸に突き刺さる。あまりのことに、膝を折りそうになる八左ヱ門。しかし、彼はこらえた!
「……こんなことで、くじけてたまるか!! おれには、世界を救うという使命があるんだ!!」
気力を振り絞り、変身する八左ヱ門。そのとき、彼の左のリストバンドがまばゆく光った!! スベってもめげない、その勇気に反応したのである!!
結局勇気かよ、とか、こんなどうでも良いシチュエーションで目覚めるのかよ、とか色々と言いたいことはあったが、それ以上に八左ヱ門は己の身体の変化に驚いていた。リストバンドから力が解放され、今までとは比べものにならないくらい戦闘力が上がったのである!
結局この日は邪忍衆もユキもトモミも、八左ヱ門がひとりで追い払ってしまった。今まで、ユキやトモミには歯が立たなかったのに、である。
これは本物だ!
そんなわけでこのときから、ゴネンジャーの心の特性を探す日々が始まったのだった。
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第三十三話「思い出は百万ボルト」
勇気の力が目覚めた八左ヱ門は絶好調で、ここ最近はほとんどひとりで戦っているようなものだった。
それを見て勘右衛門は、歯がゆい思いを抱いていた。何せ、勘右衛門は元々16年前の世界を生きていた戦士……つまり、八左ヱ門たちよりも先輩にあたるはずなのだ。それなのに八左ヱ門に先を越されたのである。悔しくて仕方が無かった。
一体、自分の心の特性は何なのか……。
銭湯に浸かりながら考える勘右衛門。そこに、灰州井溝がやって来た。
勘右衛門は、灰州に自らの屈託を話してみた。灰州の答えはこうだった。
「行き詰まったときは、己の原点を思い出せ」
風呂から上がり、八左ヱ門は灰州の言葉を反芻していた。
原点。勘右衛門は十六年前のことに思いを馳せた。
そういえばあの頃は、ひとりで戦っていた。
ひとりで悪と立ち向かい、ひとりで苦しみ、そしてひとりで十六年の眠りについた。
思えばあのときは、何とも味気ない毎日を送っていたのではないか。
しかし今は、仲間たちがいる。喜びも悲しみも、分かち合える友がいるのである。
「……先を越されて悔しいとか、そう言えるのも幸せなのかも」
ぽつりと呟いたその瞬間、ユキとトモミ、そして邪忍衆が現れた。
勘右衛門は必死で戦い、邪忍衆を次々に倒した。しかし数が多い。
「あんたひとりだったら、楽勝なんだから!」
ユキとトモミはけらけらと笑った。
「ひとりなら楽勝、ね……」
勘右衛門はひくく笑う。ユキとトモミが不審げな顔になった瞬間、彼女たちの周りにいた邪忍衆が、一斉に倒れた。
何が起こったのかと戸惑うユキ、トモミ。
そこには八左ヱ門、兵助、雷蔵の姿があった。邪忍衆は、彼らが倒したのである。
「悪いけどおれ、ひとりじゃないんだよね」
勘右衛門は自信満々に胸をそらした。その瞬間、勘右衛門のリストバンドが輝いた!
それは、彼がひとりで戦っていたときには持っていなかった心……希望の心だった!
四人の総攻撃に耐えかね、ユキとトモミは逃げ帰った。
それを、物陰から見詰める黒い影があった。
兵助がその姿に気付いたが、黒い影は消えてしまった。
「今の、三郎じゃないか……?」
兵助は「どうして、三郎はおれたちの前に姿を現さないんだ」とかねてからの疑問を口にした。
その瞬間、雷蔵と勘右衛門が顔を強張らせるのを、兵助は見逃さなかった。彼はふたりを問い詰めた。
そしてついに勘右衛門が、「実は……」と口を開くのだった……!
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第三十四話「正解は何処にあるのか」
勘右衛門の話は、今まで事情を知らなかった兵助と八左ヱ門にはとてつもない衝撃だった。
三郎は、元々卍の者だった……つまり、彼らの敵だったのだ。
「だけど……だけど、みんなも知ってるとおり、三郎は良い奴なんだ! 彼は全力で、悪と戦っていた。ぼくたちの仲間なんだ」
雷蔵が必死で訴える。勘右衛門も、「おれも最初は戸惑ったけど、鉢屋を信じるって決めた」と頷いていた。
「……おれも、三郎を信じるぜ! だって今まで戦ってきた仲間だもんな!」
八左ヱ門は力強く胸を叩いた。雷蔵が、安堵の表情を浮かべる。しかし兵助は、すぐに同調することは出来なかった。
「おれは……少し考えたい……」
「……兵助……」
なんとなーくぎこちない空気になったところで、敵襲が。すぐさま応戦するゴネンジャー。
覚醒済みの八左ヱ門と勘右衛門の活躍で敵を追い詰めるが、あと一歩のところで逃げられてしまう。
戦闘が終わってから、雷蔵はたびたび「三郎のことを信じて欲しい」と兵助に訴えるようになる。八左ヱ門と勘右衛門も、それに同調する。その度に、何やらモヤモヤとした気持ちを抱える兵助。
友人たちの主張することと、自分のモヤモヤは何処かかみ合っていない気がする。しかしその正体がよく分からない。兵助のフラストレーションはどんどん溜まってゆく。
そのとき、また敵襲が。先日逃がした敵であった。
お約束のように、パワーアップして帰って来た敵。
今度は苦戦するゴネンジャー。
しかも、何故か兵助が変身出来なくなっていた!
しかし、わざと変身していないのだと勘違いした八左ヱ門は「まだ三郎のことを許せないのか!」と憤る。
そのとき兵助は、自分の気持ちに気が付いた!
「違う……違うんだ。三郎の過去が許せないとか、そういうことじゃないんだ。それを……それをずっと隠されていたのが、嫌だったんだ! おれたちは仲間なのに!」
珍しく声を大にして、自分の考えを吐き出した兵助。
その瞬間、兵助のリストバンドが光った! 彼の、「誠実」の心が解放されたのだ!
無事に変身出来た兵助がワンパンで敵を倒し、仲間たちとのわだかまりも解け、めでたしめでたしなゴネンジャーであった 。
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第三十五話 「始まる」
鉢屋三郎は、卍の基地にいた。
暗い部屋に置かれた鏡を覗けば、地上の様子を見ることが出来る。
そこには、戦うゴネンジャーの姿があった。
三郎はそれを、眩しいような切ないような不思議な気持ちで見詰めていた。少し前まで、自分もあの中にいたのだ。彼らと共に笑い、傷つき、勝利を掴んできた……。
しかし三郎はこの場所に戻ってから、過去の記憶をほとんど取り戻していた。
彼は山本シナの手によって生み出され、彼女の命令を遂行する為だけの存在だった。
シナの命令で、様々な悪に手を染めた。人々の夢や希望を奪い、壊してきた。
そんな中、シナから下された命令が「不破雷蔵に化け、彼を殺して成り代われ」だった。
途中で記憶を失わなければ、彼は何の躊躇もなく雷蔵を殺していたことだろう……。
「三郎せんぱーい、シナ様がお呼びですよー」
ユキとトモミの声に、三郎ははっと我に返った。鏡を伏せ、立ち上がる。
シナは戸部新左衛門の眠る殻の前にいた。
殻はどくんどくんと脈動し、戸部の息づかいがこちらにまで伝わってくるようだった。
「おまえにも分かるでしょう……もうすぐ目覚めるわ」
シナは嬉しそうに言った。三郎は黙って、戸部の顔を見詰めた。そんな彼に、シナはこう言った。
「あら、なあに。まさか、ゴネンジャーが心配だとでも言うんじゃないでしょうね?」
三郎は答えなかった。するとシナは、三郎にひとつの命令を下した。
「三郎。改めて命じるわ。不破雷蔵を殺していらっしゃい」
びくりと肩を震わせる三郎。シナは笑いながら言葉を重ねる。
「わたしの命令には逆らえないって、分かっているでしょう。……だって、そういう風に作ったのだもの」
……さあ、どうするどうなるゴネンジャー……!?
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