第十六話「やっと出来たぞ合体技!」

ゴネンジャーバンビーノこと竹谷八左ヱ門が、学校生活で最も輝く瞬間、それが体育の時間である。

サッカーの授業で華麗かつ豪快なプレーを披露する彼に、熱視線を送る人物がいた。サッカー部の部長である。彼は八左ヱ門をサッカー部に勧誘するが、彼はゴネンジャーとしての使命を帯びているため、部活動を行うわけにはいかない。そのように告げると、

「じゃあ、今週日曜、試合の日だけで良いから助っ人に来てくれ!」

と食い下がられる。一日だけならば、と助っ人を引き受ける八左ヱ門。

そして試合の日。雷蔵、三郎、兵助、勘右衛門は弁当を持って、八左ヱ門の応援に出掛ける。彼の活躍に惜しみない声援を送っていると、妖精ミキが現れ、敵襲を告げる。彼らは迷った挙げ句、試合中の八左ヱ門には黙って、四人だけで出撃することにした。

珍しく徒党を組んで現れた卍とドクタケの邪忍衆に手を焼くゴネンジャー。そこに、試合中のはずの八左ヱ門が現れる。

「八左ヱ門、どうして……!」

「ハーフタイムさ!」

そういうわけで全員揃ったゴネンジャーは、唐突に編み出した合体必殺技「獣王の意気」で敵を殲滅。 ミキ愛用の巨大石火矢を利用し「人間大砲」で試合会場まで送ってもらった八左ヱ門は無事後半に間に合い、見事勝利を収めたのだった。

尚、人間大砲は大変危険なため、よい子もわるい子も社会不適合者も、けして真似しないで下さい。

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第十七話「刃の記憶(前編)」

五人揃っての帰り道。マクドナルドに寄るかドーナツ屋に寄るかで揉める彼ら(雷蔵は迷ってしまったため無回答)の前に、灰州井溝がふらりと現われた。

その剣士を見た瞬間、何故か目の色を変える三郎。雷蔵たちが止めるのも聞かず、三郎は脇目もふらずに灰州に襲いかかった! そして、それを真っ向から受けて立つ灰州。

激しく戦う三郎と灰州を、しばし呆然と見つめるゴネンジャー。確かに灰州は敵か味方か分からぬ謎の剣士ではあるが、三郎と彼は初対面のはずだし、何よりも、三郎は過去の記憶を持たないのである。何故、三郎はいきなり灰州に襲いかかるのか……。
また、灰州と戦う三郎は、明らかに、普段の彼よりも強かった。これは一体、どういうことなのだろう。

戸惑いが勝り止めに入ることを忘れたゴネンジャーの目の前で、三郎は灰州井溝に峰打ちで叩きのめされてしまう。我にかえり、三郎に駆け寄る四人。そうしている内に、灰州は登場時と同じく、ふらりと姿を消したのだった。

気を失ってしまった三郎を雷蔵の家まで運び、手当てを施す。しばらくして目覚めた彼に、仲間たちは「何故、灰州に襲いかかったんだ」と問い詰める。しかし、三郎は、さきほど灰州と戦ったことを全く覚えていなかった。灰州井溝という男が誰なのかも、知らないと言う。

「ていうか、何でおれこんなにあちこち痣が出来てんの? マックかドーナツ食って帰るって話じゃなかった?」

三郎は首を捻る。嘘を言っている様子ではなかった。灰州と会ったときの記憶のみが、すっぽりと抜け落ちているようだった。

これはおかしい、と顔を見合わせる四人。しかし三郎だけは、何が何だか分からない、という表情できょとんとしているのだった。

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第十八話「刃の記憶(後編)」

未だ二十一世紀に順応出来ない十六年目のヒーロー・尾浜勘右衛門。彼の趣味は街のあちこちを練り歩き、昭和の片鱗を探すことであった。勘右衛門が常に持ち歩いている「おもいでノート」には、駄菓子屋、電話ボックス、銭湯、ストリートファイター2とテトリスが置いてあるゲーセンなどの情報がびっしりと書き込まれていた。

ある日、勘右衛門は「おもいでノート」をめくりながら、お気に入りの銭湯に出掛けた。一番風呂を狙って意気揚々と浴場に足を踏み入れると、先客が居た。その人物を見て、勘右衛門は一瞬凍り付く。

悠々と風呂につかっているのは、灰州井溝であった。

警戒する勘右衛門に灰州も気付き、「風呂の中に刀は持っては入れないから、戦う気は無い」と彼が言うのを聞き、ようやく勘右衛門もホッとして風呂に入る。

ひろい浴場に灰州とふたり。あまりの気まずさにテンパる勘右衛門だが、この際なので開き直り、「以前にも、鉢屋三郎に会ったことがあるのですか」と尋ねた。すると、こんな答えが返ってきた。

「鉢屋三郎という名前は知らない。だが、恐らく、あの男には会ったことがある」

どきりとする勘右衛門。しかし、恐らく、と曖昧な言い回しなのは何故なのか。それを問うと、灰州井溝はひとりごとのようにこう言った。

「会ったことがある……、いや、もっと言うと、刃を交えたことがある……」

そんな言葉を残し、灰州は風呂から上がっていった。勘右衛門は呆然として彼を見送った。灰州と三郎は、過去に戦ったことがある。それは、三郎の過去を探るヒントであると同時に、ますます彼の謎を深める言葉であった。

その頃、港で邪忍衆が暴れているという報せがゴネンジャーにもたらされた。勘右衛門も現場に急行するが、長時間湯船で三郎と灰州のことを考えていたせいで、すっかり湯あたりしてしまい、戦おうにも全く力が出なかった。そんな勘右衛門に毒を吐きつつも、サポートしてくれる鉢屋三郎。

勘右衛門はそんな彼の友情に感じ入り、今日、灰州から聞いたことはしばらく自分の胸に留めておこうと考える。そうしないと、何か、悪いことが起こるような気がした。

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第十九話「秋じゃなくても読書しようぜ」

最近、雷蔵と兵助はミステリにはまっている。シャーロック・ホームズに江戸川乱歩、エラリー・クイーンなどの古典から「このミス大賞」まで、とかくミステリを読み漁る日々である。

「わたしだ。久々知である」
「男一匹、不破雷蔵なのである」
「いぶし銀の久々知兵助である」

などと、古処誠二(現在は戦争ものを主に手がけているけれど、デビュー作はミステリ)の日記の口調まで真似しだす始末。

まあそんな感じでのどかなゴネンジャーであったが、そんな彼らの前に雑魚邪忍衆と、ボスっぽい忍者怪人が現れる。勇猛果敢に戦うゴネンジャーだが、ボスっぽい怪人は倒せども倒せども復活してくる。こいつは不死身なのか……?

と、 ここで兵助の推理が光った。

「いいや、ちがう。本体が別の所にいて、この体を操っているんだ!」

「ふふふ、よくぞ見抜いたなゴネンジャー!しかし、我が本体が何処にあるか分かるかな!」

言い当てられてもしらばっくれときゃいいのに、ご丁寧に手の内をゲロる敵怪人。しかし本体の居場所が分からず、苦戦するゴネンジャー。そうしたら今度は、雷蔵が何かを閃いた。

「兵助、あの名台詞を思い出すんだ! 木を隠すなら森の中!」

「そうか! 敵を隠すなら……」

「敵の中だ!」

ミステリかぶれの兵助と雷蔵の気持ちが一つになったとき、彼らの合体技「人畜無害ウェーブ」が生み出された!

人畜無害ウェーブで周りに群がっていた邪忍衆を一掃した兵助と雷蔵。彼らの推理どおり敵の本体は邪忍衆の中に混ざっており、見事、撃破することが出来たのだった。

この一件以来、しばらくゴネンジャーではミステリが流行した。特に、「犬神家の一族」のスケキヨの物真似は長く後を引くブームとなった。

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第二十話「アルバイトは校則に従って!」

ある日の放課後、雷蔵は委員会の後輩に頼まれて、弁当屋のバイトに出掛けた。おばちゃんばかりの弁当屋に男ひとりが混ざるのは正直キツいものがあったが、可愛い後輩のためにと雷蔵は頑張るのだった。

一方、他の四人は特にすることがないので、作戦本部という名の溜まり場でダラダラしていた。最初はジャンプを回し読みしたり、お菓子をつまみながら実の無い雑談に興じたりしていた彼らだったが、その内に三郎の様子がおかしくなり始めた。どうにも落ち着かないようでそわそわし、キョロキョロと辺りを見回す。彼はどうやら、雷蔵が側にいないことに、不安を感じているようだった。

「18時であがりらしいから、そのときにみんなで雷蔵を迎えに行こう」

と兵助が宥めても一向に気が鎮まらない。しまいには、「雷蔵、雷蔵!」と呼び掛けながら作戦本部を飛び出してしまった。慌てて追い掛けるゴネンジャー。

三郎は学校を出て、雷蔵のバイト先に向かう。どう見ても暴走であった。八左ヱ門ら三人は三郎を必死で止めようとし、しばし揉み合いとなる。 そこに、灰州井溝が通りかかった。

「あっほら三郎、灰州だぞ!こないだみたいに戦わないと!」

どうにかして雷蔵から気をそらしたい八左ヱ門は、無責任に三郎をけしかけた。しかし三郎は、灰州のことなど視界に入っていないようだった。

「あーもうすいません灰州さん、こいつのこと、前みたく峰打ちでボコッてくれませんか!」

八左ヱ門は、今度は灰州をけしかけた。勘右衛門と兵助はオイオイと思った。しかし、

「わたしに刃を向けぬ者に、振るう刀はない」

と、無闇に格好いい言葉とともに断られる。兵助は「いや、あんた初登場時は、こっち何もしてないのにいきなり襲いかかってきたじゃん……」と思ったが、言い出せなかった。

そして灰州はさっさと去ってしまった。万策尽きたゴネンジャー。そこに敵が現われるが、バーサク状態の三郎が全部倒してくれた。その点だけは便利だなと八左ヱ門たちは思った。

「あれ、みんな何やってんの? バイト終わったよー」

そのとき、バイトを終えた雷蔵が現われた。彼の声で、ぴくりと動きを止めるバーサク三郎。

「コロッケと唐揚げをいっぱいもらったから、みんなで食べよう」

ひとり事情を知らない雷蔵は、にこにこと揚げ物の詰まった弁当箱を掲げてみせる。放心したように雷蔵を見つめる三郎。そんな彼らを、ハラハラしながら窺う八左ヱ門ら。

「……うん、食べる」

こくりと三郎は頷く。それを聞いた瞬間、八左ヱ門らは安堵のあまりその場にへたり込み、同時に、こいつと雷蔵を引き離してはならぬと決意するのであった。

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