「縞模様のパジャマの少年」
ジョン・ボイン作 千葉茂樹訳(高校生向け)



とりあえず、作者名が男子高校生ホイホイですよね、ジョン・ボイン。 10代男子とか、そういうくっだらねえネタ大好きだろ。

「ボインやってボイン! えっろー!」

とか言いつつ食い付くだろきっと。 全国にひとりかふたりくらいは、「名前がボインやのに、話には巨乳が出て来んくて残念でしたー」みたいなアホ感想を書く男子高校生がいるんじゃないかと期待。男子校の奴でな。きりんこはそういう馬鹿が大好きですが、もし自分が国語教師でそういう感想文を提出する生徒が居たら、全力でイラッとすると思います。

作者名でここまで引っ張るわたしも大概ですね! さてあらすじ。


舞台は第二次大戦中のドイツ。9歳のブルーノ少年は、軍人であるお父さんの仕事の都合でベルリンから田舎に引っ越します。
そこでフェンスに囲まれた建物を見付け、フェンスの中にいる縞模様のパジャマの少年シュムエルと友達になります。
ソートー様とかハイルヒトラーとかユートーシュとか、ブルーノには分からないことが一杯なんですが、何も分からないままうっかりフェンスの中に入っちゃって、そのままブルーノは行方不明になってしまうのでした。


……さて、冒頭でボインがどうのこうのと下らんことをほざいたのが非常に気まずくなるくらい、ヘビーなお話でした。
だってラスト、ブルーノ行方不明になってもうてるんですよ……!

子どもゆえ無知という設定のブルーノ視点なので詳しいことは全然書かれていませんが、背景を読み取ることは容易です。ナチスとユダヤとアウシュビッツ収容所とホロコーストのお話。
で、ラストの真相は、ブルーノはフェンスの中に入っちゃったことでユダヤ人と間違われて、ガス室に入れられちゃったという、ね……!
たまたまシラミのせいで髪の毛を全剃りしてて、更にシュムエルが持って来た囚人服(ブルーノはパジャマだと思ってる)を着ていたから起こった悲劇、という感じでした。

えっえええっええー。

読んだときめっちゃびっくりしました。 とりあえず、フェンス越しにナチスの少年とユダヤ人が会話出来るなんて、ものっそいガード緩いですよアウシュビッツ。
シュムエル、よゆうでフェンスの金網持ち上げてましたよ。高圧電流をものともしない九歳児。クオリティ高すぎるだろ。
お前、ナチス倒せるんじゃないか。その手で世界を変えられる。
(作中では、高圧電流は流れていないという設定です)

あまつさえ、フェンスの中に入れるなんて。中に入れるってことは、外にも出られるってことなんだぜ……? わずかな隙間らしいですが、そんなん脱走し放題じゃないか。ちょっとどうなってんのボインさん。
訳者も、この設定は「有り得ない」と断じた上で、「有り得ないのに、なぜ作者はこの話を書いたのかそこを考えて欲しい」というようなことをおっしゃってました。

個人的には、こういうテーマを書く場合は事実に基づいてきっちり書いて欲しいなーと思います。でないとやっぱり、何だか齟齬が生じますもの作品全体に。
特に若い子向けに書かれた作品ですと、アウシュビッツってこういうものだって思う子がいるかもしれないし。そういうのって、どうなんでしょう。
まあ、訳者の後書きでその辺はそれなりにフォローされていますが、全員が全員、後書きを読むとは限らないし。

あと疑問なんですが、ドイツ人で軍人の息子が9歳にもなって、総統様とかユダヤ人とか優等種とかハイルヒトラーとか、そういうことの意味を何一つ知らない、なんてことが有り得るんでしょうか。
13歳の、主人公の姉はその辺のことは分かってるようでしたが、ブルーノは最後まで何も知らないままでした。
えっ、それは、流石に……!
「ハイルヒトラー」が「ごきげんようさようなら」くらいの意味だとしか思ってないとか、流石に……!

でもそんくらい無知じゃないと、このお話は成立しないんですよね。じゃないと、フェンスの中になんか入らんもんな。
なんていうんですか、この、史実に基づいた出来事を背景としながら、物語の超メインである主人公とアウシュビッツの「ありえなさ」がないとお話が成立しない、という点にすーごーく、モヤモヤします。
史実なら史実、ありえないならありえない、どっちかにして欲しい……!
ギャグとか、そういう気軽に読める題材なら事実とフィクションが混同してても良いんですが、こういう考えさせる系の話でそれをされるとちょっと困惑です。しかも、歴史も詳しいわけじゃないので、これ読んで感想文書くとなるとものっそいモヤモヤ感想文になってしまう……モヤモヤ。

まーボインに惹かれてこれを課題に選んでしまった男子高校生は、苦戦すること必至だと思います。ファイッ!
正直、「あーわたし今高校生じゃなくて良かった!!」って思ってますもん。今はサイトにアップするだけだから割と気楽に感想書いてますが、学校に提出するような感想文は書けないこれ! モヤモヤすぎる!
2,3回読んで呑み込んだら書けるかもしれないけど、そこまで読み込みたい話ではない!

あ、もしかしたらメイドのマリアは巨乳だったかもしれませんね。(何の話!)
男子高校生の心のオアシスになるかもしれない。若いし。
だからこれをうっかり手に取っちゃった男子高校生は、まだ見ぬマリアの巨乳に思いを馳せて頑張って欲しい。

しかしマリアの、「待遇の良すぎるメイド」という設定は絶対なんかの伏線だと思ってたのに、そんなことはありませんでした。おやまあ!