| ※一年は組のみなさんが、六年になっています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ■それもまた青春■
 
 
 「馬借の若旦那、いるかー?」
 
 きり丸はそう呼び掛けつつ団蔵と虎若の部屋の障子を開け……ようとしたが、途中で何かが引っ掛かって開かない。がたがたと戸を揺らしつつ、室内に向かって叫ぶ。
 
 「おい! 開かねえぞ!」
 
 「ああー、悪い悪い! 虫籠が引っ掛かってるわ。今どかすから、ちょっと待ってろ」
 
 中から、虎若の声が聞こえてきた。虫籠と聞いて、きり丸はぞっとする。
 
 「おい、その籠の中身、逃がすなよ」
 
 すると笑い声が返って来る。
 
 「心配すんなって、空だから! ……よし、これで開くぞ」
 
 そう言われて、改めてきり丸は障子を引いた。今度はきちんと開いた。そして、中にいた人物を見て「お」と声を上げる。
 
 「あれ、三治郎がいる」
 
 室内にいたのは、虎若と三治郎だった。三治郎は「どうもー」と言って軽く手を挙げる。きり丸は後頭部を掻いた。どうやら、団蔵は不在のようだった。
 
 「団蔵、何処行ったか分かる?」
 
 尋ねると、すぐに虎若が答えてくれた。
 
 「あいつは、予算会議の準備でここ三日ほど帰って来てないなあ」
 
 「ああ、そうかあ。虎若と三治郎も、予算会議対策?」
 
 見ると、虎若と三治郎は床に紙を広げて何やら作戦会議中のようだった。もうすぐ委員会の予算会議なので、予算をもぎ取るために生物委員は幹部会議の真っ最中だったらしい。
 
 「まあ、そんなとこ。孫次郎と一平は、会計委員を偵察中」
 
 さりげなく紙を伏せつつ、三治郎は微笑んだ。
 
 「六年多いと、色々出来て良いよなあ」
 
 きり丸は息を吐いた。生物委員には、六年生が四人もいる。彼らが下級生の頃は、上級生の数が少なくて予算会議でも不利であったが、今となってはどの委員会よりも有利である。 
          羨ましい限りであった。
 
 「図書委員は、対策練らなくて良いの?」
 
 「うちは、委員長さまにお任せしてっから」
 
 虎若の質問に、きり丸は口角を持ち上げた。虎若と三治郎は、顔を見合わせた。
 
 「ああ……」
 
 「あの委員長……」
 
 図書委員長である、六年ろ組の二ノ坪怪士丸が脳裏をよぎったのだろう、ふたりとも、笑っているような怯えているような、微妙な表情で呟いた。そのまま彼らはしばらく沈黙していたが、やがて、虎若が気を取り直すように声を明るくした。
 
 「……そんで? 団蔵に何か用だった?」
 
 「あ、うん。昨日、昼飯代貸したから徴収に。いねえんじゃしょうがねえな。利子もらわないと」
 
 「よりにもよってきり丸に借りるなんて、阿呆だな、あいつ」
 
 虎若は呆れ顔で溜め息をついた。正直、きり丸もそう思う。自分で言うのも何だけれど、何もおれに借りなくても。
 
 「延滞の担保に、何か持って行けるもんねえかなあ」
 
 「あ、その行李の底に春本が隠してあるよ」
 
 三治郎はにこにこして、壁際に置かれた行李を指さした。きり丸は指を鳴らす。
 
 「お、まじで? ていうか、それを虎若じゃなく三治郎が教えてくれるのかよ。ばればれじゃん。若旦那、隠してる意味ねえじゃん」
 
 「生物委員の六年は全員知ってまーす」
 
 そう言って三治郎が指を四本立てるので、おかしくなってきり丸は行李を開けつつ声をあげて笑った。完全に言いふらされている。可哀想な若旦那。
 
 「ちなみに、左吉も知ってんだぜ」
 
 背後から飛んで来た虎若の言葉が一層おかしくて、きり丸は更に笑った。同じ委員会の人間にも知られているなんて、最悪すぎる。ああ、本当に可哀想な若旦那。そう思いつつ、行李に手を突っ込んだ。そのまま 
          底を探り、二重底になっているのを発見する。そこに目当てのものがあった。
 
 「そしてこの瞬間、おれにも知られてしまうのであった、と」
 
 きり丸は団蔵の秘蔵らしい春本を取り出した。気の毒な若旦那。このことは責任を持って、怪士丸と、それに乱太郎としんべヱにもきっちりと伝えておくから達者で過ごせよ。
 
 「よし、それじゃあこの春本持ってくわ。返して欲しくば、借りた金に食券二枚つけて図書室まで来い、って言っといて」
 
 言いながら、きり丸は春本を軽く振ってみせる。虎若と三治郎が、声を揃えて笑った。
 
 「悪徳だ」
 
 「いえいえ、とんでもない。うちは明朗会計ですよう。……ていうか、団蔵ってこういうの好きなんだ、へえー」
 
 ぱらぱらと頁をめくって何となく中を眺めていると、虎若と三治郎も手元を覗き込んでくる。
 
 「残念ながら、おれの趣味とは違うんだよなあ」
 
 虎若は、渋い顔で首を横に振った。その隣で、三治郎がうんうんと頷く。
 
 「ぼくもこういうのは、あんまりだなあ。きり丸は?」
 
 「あー。ありっちゃありだけど、無しっちゃ無しかなあ」
 
 きり丸が微妙な返事をしたところで、物凄い勢いで部屋の戸が開かれた。
 
 「っあああー!! お前ら、何やってんだ!!」
 
 渦中の若旦那のご帰還であった。きり丸、三治郎、虎若は視線を絡ませ、にやりと笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 30分で全員書くのは無理だな、と思ったのでアミダで3人選びました。
 きり丸、虎若、三治郎。
 最初は「えっ何だこの組み合わせ……!!」とか思ったけど、何も考えずに書き始めたら割とサラサラ書けました。
 みんなで若旦那をいじれば良いじゃない!
 あと、生物委員は成長したら最強ですよね。六年四人て反則レベル……! でもそれってめちゃくちゃオイシイ!
 いやーやっぱ、成長は組って楽しいなあ。
 機会があれば、また色んな組み合わせで書いてみたいです。
 リクありがとうございました!
 
 
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