■二段飛ばしで駆け上がるクリスマス■


「ちょ……っ、メガネ、何やって……おいっ!」

 ベリショは腕を伸ばして、のしかかってくるメガネの身体を押しのけようとした。しかしメガネは上から体重をかけて、ベリショの抵抗を封じる。

 いつものように、家にメガネが遊びに来た……と思ったら、何故かベッドに押し倒された。

 現状を端的に説明すると、こうだ。ベリショは混乱していた。何がどうなったら、そんな展開になるのかが全く分からない。

「いやほら、クリスマスだし」

 メガネはあっけらかんと言う。説明になってねえよ、と言い返そうとしたら、唇で口を塞がれた。ぬるりとした舌が口の中に絡みついて、思考が一瞬麻痺する。しかも彼の片手が下腹部に伸びてきて、ベリショは一気に恐慌状態に陥った。

「んんん! んん!」

 必死でメガネの背中を叩くと、口は離してくれたが手はさっさと下着の中に潜り込んでくる。ベリショの身体がびくりと跳ねた。

「や、め……っ! ちょ、ほんとに何なんだよ……っ!」

「ベリショ、好きだ」

「いや、おま……! 何キリッとして……うあ、あっ」

 性器を掴まれて、ベリショの手足は硬直してしまう。メガネの指が、ベリショの弱い部分を刺激する。

「あ……っ、う、う……」

 メガネがやけに真面目な顔をしているのがいたたまれなくて、ベリショは顔を背けた。そうしたらメガネが空いている方の手でベリショの頭をつかみ、ぐるりとメガネの方を向かせる。本当に、一体何なんだと、ベリショは泣きたくなった。

「そういえば」

 世間話でもするような口調で、メガネが言った。その間も、手はベリショのものを擦る。手が動く度に、ベリショの身体は快感に震えた。

「ここって、どうなん」

 そう言ってメガネは、ベリショの頭上に鎮座するキリン耳とツノを順に指さした。

「どうなん……って、何、だよ……っ」

「いや、感じんのかな、って」

「は……? いや、おい、ちょ……っ、やめ、やめろって!」

 ベリショの静止を無視して、メガネはベリショのツノを舌でぺろりと舐めた。

「……っ!!」

 その瞬間に正体不明の衝動が全身を突き上げ、ベリショは果ててしまった。腰が痙攣し、メガネの手の中に白いものが吐き出されていく。何でこんなことでいってしまうんだ、とベリショは自分が信じられなくなった。

「あ、感じるんだー」

 メガネは納得した風に頷いて、再びツノに舌を這わせた。

「やめ……ろ、って、言って……あ……っ、あっ」

 ベリショは力の入らない手で、メガネの腕を掴んだ。ツノを舐められると、まるで性器を愛撫されているかのような快感が走った。それは一体どんなメカニズムなんだ、と考える余裕もない。自分の意志とは全く関係なしに口から漏れる嬌声も、どんどん力が抜けてへろへろになってゆく。

「は……っ、あ、あっ、ああ、あ!」

 性器に触れられているわけでもないのに、ベリショは再び達した。汗が目に入って、視界が滲む。ついでに頭がぼうっとして、ベリショは何だか全てがどうでもよくなってきた。




「おい」



「メガネはベリショの吐き出した精液を彼の後口に塗りつけ、ゆっくりと指を中に進入させた。瞬間、ベリショの身体が魚のように跳ねる」

「おい」

「体内の粘膜に直接触れられるという未知の感覚に震えるベリショに、メガネはくちづけを落とし」

「おい、っつってんだろ! てめえ、いい加減黙れよ!!」

 僕は声を振り絞って叫び、手のひらサイズの青い悪魔めがけて拳を振り下ろした。しかしピコカンは、すいっと飛び去って僕の攻撃をかわし、不服そうな顔でこちらを睨んできた。

「何なんですか、ベリショさん。折角いいとこだったのに」

「何がいいとこだ、アホか! あのなあ! お前がどんな妄想しようと勝手だけどな、口に出すな、口に! そしてそれを、本人たちの前で披露するな!」

 僕は再び、ピコカンに殴りかかった。しかし奴は素早く、僕の怒りの鉄拳はまたも空振りになってしまう。

 今日はクリスマイブ。去年と同じく両親が旅行に出掛けてしまって、孤独に耐えきれなくなった僕は、いつものようにメガネとだらだら過ごしていた。するとそこに、僕たちにとって疫病神以外の何者でもない、BL世界の妖精、ピコカンが現われたのである。

「いやだなあ、この話に秘められた、僕からの隠れたメッセージに気付かないんですか?」

「……何だよ、隠れたメッセージって」

 怒鳴りすぎていささか疲れた僕は、荒い息を吐きながら言った。するとピコカンは、何故か誇らしげに、腰に手を当てた。

「クリスマスなんだから、セックスくらいしろよ、っていうことですよ」

「それの何処が、隠れたメッセージなんだよ! モロだろ! つうか、しねえよ! アホか!」

 ああもう、ツッコミ所が多すぎて、どうして良いか分からない。そしてこの状況下で、どうしてもう一人の当事者は黙っているんだ。おかしいだろ明らかに!

 僕はそう思って、メガネの方を見た。すると彼は、いつものポーカーフェイスで信じられないことを言った。

「で、ピコカン、それからその話はどうなんの?」

 僕は固まった。ピコカンは、嬉しそうに目を輝かせた。

「おま……っ、乗っかってんじゃねえよメガネ!」

「ですよねー! 聞きたいですよねー!」

 僕の怒声と、ピコカンの歓喜の声が同時に響く。メガネは「うんうん、聞きたい」と頷く。駄目だ。こいつは本物の馬鹿だ。僕は気が遠くなった。

「差し入れた指をメガネが動かすと」

「やめろおお! 尻がムズムズすんだろがああ!」

 話を再開しようとするピコカンを阻止すべく、僕は床を拳でガンガンと叩いた。ピコカンは一旦口を閉じ、僕を見て何やらいやらしい笑いを浮かべた。

「やだ、ベリショさんてば。身体が疼いてしょうがないんですね。もーえろいんだから」

「アホかあ!」

「ああっ、ごめんベリショ、おれが気が利かないばっかりに」

「だから! 乗っかるな、っつってんだろうがメガネこの野郎!!」

 大声を出しすぎて、喉がちぎれそうだった。


 ああもう。ああもう!


 クリスマスなんか大嫌いだ!!




お疲れ様!