※現代
昼休み、竹谷八左ヱ門らいつもの五人は、机をふたつ組み合わせて集合し、弁当やらパンやらを貪っていた。夏の暑いさなか、ふたつの机に男子高校生五人が身を寄せ合うのはいささかむさ苦しいものがあったが、近くに空いている机がなかった為致し方なかった。
「そういえばさ」
弁当の卵焼きを頬張り、竹谷が切り出した。他の四人は彼の方を見やる。友人たちの注目が集まったところで、八左ヱ門は目元を心持ちキリッとさせてこう言った。
「おれ、こないだ、山田孝之に似てるって言われたんだよね……」
「ふざけんな」
勘右衛門が無表情に、八左ヱ門の椅子を蹴った。八左ヱ門は慌てて手で口を押さえる。
「馬鹿やめろよ、卵焼き出ちゃうだろ!」
「さすがにおこがましいと思う」
兵助も冷ややかな視線を送ってくる。三郎も同様である。雷蔵だけがにこにこ笑ってあんパンをかじっていた。
「お、おれが言ったんじゃねえし! 文句ならその人に言えよ!」
勘右衛門や三郎に否定されるのは想定内だったが、兵助にまでそんな冷たくされるとは思っておらず、八左ヱ門は若干の焦りを覚えつつ言いつのった。机に肘をついた勘右衛門が訊く。
「誰が言ってたの?」
「神社そばの、総菜屋のばあちゃん」
「おばちゃんじゃなくて、ばあちゃんの方?」
「そうだよ」
八左ヱ門は頷いた。神社そばの総菜屋は学校からの帰り道にあり、彼らの高校では最もメジャーな買い食いスポットだった。そこのおばあちゃんは高齢のため親戚の女性にお店を譲っており、彼女は店先に出した椅子に座り、日向ぼっこがてら生徒たちがワイワイ行き交うのを温かく見守ってくれているのだった。
勘右衛門は、深く深くため息をついた。
「お前……推定九十歳オーバーの言うことを真に受けんなよ……」
「いや! ていうか右の横顔見て! 右からの横顔見たら、何となく分かるから!」
「お前も山田孝之に似てる角度を研究してんじゃねえよ!」
「似てるとは思ってねえよ! 何となく! 何となくの雰囲気だって!」
勘右衛門と八左ヱ門が言い合う傍らで、三郎は目を輝かせて雷蔵の手を取った。
「おれは雷蔵に似てるってよく言われる!!」
「だろうねえ」
雷蔵は笑顔で相づちを打った。そのやり取りに、兵助は「その返しもなかなかすごいよな……」と呟いた。
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