部活帰りの不破くんと鉢屋くん
(pixivのを、少し加筆しました)


 白くきらめく星空の下、ぼくと三郎はアメリカンドッグをかじりながら、のろのろと川沿いの一本道を歩いていた。

 きついきつい部活の後、帰り道にあるコンビニで買い食いをするのが、ぼくたちの唯一の楽しみだった。 「今日もきつかったね」  疲れすぎて特に話すことも無かったのだけれど、歩きながら眠ってしまわないように、ぼくは三郎に声をかけた。重い瞼をどうにかこじ開けて、アメリカンドッグの外側のカリカリに歯を立てた。じゅわ、と油がしみ出してくる。後で胸焼けするかもしれないけれど、今は美味いと感じた。

 それにしても、三郎からの返事が無い。妙に思って、ぼくは彼の方に視線を向けた。いつもだったら、コーチや先輩の悪口を添えて十倍くらいにして返してくるのに。

 三郎はほんの少しかじっただけのアメリカンドッグを手に、一本道の先にある踏切を見詰めていた。

「三郎?」

 名前を呼ぶと、三郎は視線を下に向けた。

「おれ、もう部活辞める」

 小さな声だったけれど、それはぼくの頭に大きく響いた。

 三郎は一年生の部員の中で、ただ一人のレギュラーだ。ポジションは、本来はキャッチャーだけれど正捕手の先輩がいるので、今はライトだ。打順は三番を任されることが多い。

  そんなだから、三郎は先輩たちのやっかみの対象になっていた。しょっちゅう彼は、「今日は『調子に乗んな』って三回言われた」「今日は四回」とぼくに漏らしていた。目立った暴力だとか露骨な嫌がらせは無いけれど、ちくちくと嫌味を言われ続ける日々だ。

 ……三郎を野球部に誘ったのは、ぼくだった。だからぼくは責任を感じていたし、三郎の力になれない不甲斐なさを歯がゆく思っていた。元々、彼はぼくに付き合って入部しただけなので、こういうことがあればすぐに辞めたくなってしまっても当然だ。それは分かる。とてもよく分かる。

 三郎は才能のある選手だ。彼がいればチームはもっと強くなるし、ぼくはまだまだ彼と野球がしたい。今は補欠だけれどぼくも頑張って試合に出られるようになって、三郎と試合でバッテリーを組みたい。辞めて欲しくない。

  だけどぼくに、「辞めるな」と引き止める資格なんかあるのだろうか。

「……じゃあ、もう一緒に帰れなくなるね」

  だからぼくは、そんな風にしか言えなかった。前方から、踏切の音が聞こえてくる。カンカンカン。今は一体、何時なのだろう。

「……一緒に帰れなくなるのは、やだな」

 三郎は呟いて、アメリカンドッグにかぶりついた。

「……明日も朝練、だるいね」

  三郎は口の端についたケチャップを舐めて言った。明日の朝練の話をする……ということは、辞めるのは無し、って、こと……かな?

「ほんと、だるいね」

 ぼくはホッとするのと、えっそんなので思いとどまっちゃうんだ? という気持ちがごちゃごちゃに混ざって何だか泣きそうになったので、大きく口を開けてアメリカンドッグをかじった。油がじゅわり。美味い。

 それきり、ぼくたちは黙って一本道を歩いた。踏切が近付いてくる。あれを越えれば、家までもうすぐだ。