※「家路へと」番外編的な感じです
※↑きり丸が忍術学園入学前に土井先生に拾われる、という話です
※今回は、きり丸が忍術学園入学金を貯めてるときのお話です






■歩く姿は百合の花(きり丸)■


 断固として主張するが、最初にその場所を売り場として確保していたのはきり丸の方であった。だからあれは、そもそも割り込んできたあっちが悪いのだと、今でも彼はそう思っている。

 きり丸が、忍術学園に入る前のことである。この日の彼の仕事は野菜売りであった。付き合いのある百姓から野菜を預かり販売し、あがりの何割かを貰う約束だった。

  きり丸は朝早くから場所を取り、商いを始めた。

「野菜、いかがですかーっ! お安いですよーっ!」

 最初は至極順調であった。とかく売れる。面白い程に売れてゆく。この調子でいけば昼過ぎには全て売れるのではないか、という勢いであった。

 が、昼頃、きり丸と同じくらいの歳の少女がふらりと現われた。痩せていて小柄で表情も暗く、貧相な少女だときり丸は思った。

  すると彼女はこともあろうに、きり丸のすぐ隣で彼と同じ野菜を売り始めたのである。

「おい、ここはおれが取ってんだ。お前はよそに行けよ」

 きり丸は顔をしかめ、少女に抗議をした。しかし彼女はもそもそと口を動かし、「知らないわ、そんなの」と小さな声で言った。きり丸はむっとしたので、再度立ち退きを要求した。しかし、彼女はその場所から退く気配を見せなかった。

「だって別に、あんたの土地ってわけじゃないでしょう」

 なんて嫌な物言いだろうと思った。きり丸はもう、彼女には構わないことにした。こんな女と話をしたくない。それに少女は声も小さいし常にうつむきがちで、商売に向いているようには全く見えなかった。だから、彼女がいくら此処できり丸と同じ商売をしようと、敵にはならないだろう。きり丸は物売りが一番得意な仕事だった。だからさっさと野菜を売り切って、この目障りな少女の元から自分が去ってやろうと思ったのである。

「いらっしゃーい! 野菜、いかーっすかあー!」

 きり丸は愛想の良い笑いと共に、大きな声を張り上げた。それを聞きつけ、道行く人が立ち止まる。どんなもんだ、ときり丸は隣の少女を見た。彼女は口を小さく動かし、「どうか、野菜、買ってくださいまし」と細い声で呼び掛けていた。やはり、相手にならない。きり丸は自分の勝利に満足し、しぜんと笑顔になった。

 しかし、にわかには理解しがたい出来事が起こった。

 何故か皆、きり丸ではなく、少女の方から野菜を買ってゆくのである。きり丸は唖然とした。必死で呼び掛けを続けるが、客はどうしても少女の方に流れてゆく。彼女の売り物はたちまち完売し、少女は昼過ぎには撤収の準備を始めたのだった。

「な……、何で……!」

 きり丸は信じられない思いで呟いた。少女は、すっかり空になった籠を背負い、きり丸を見下ろして不敵に笑った。そのときの彼女は先程までのように暗い顔はしておらず、勝ち気にみなぎった表情を浮かべていた。

  そこできり丸は、はっと気が付いた。彼女の、幸の薄そうな仕草や振る舞いは演技であったのだ。そういえば彼女から野菜を買っていた人たちは、皆一様に、この少女を哀れむような顔をしていた。それが狙いであったのか。全く商売慣れしていないように見えて、この少女は手練れであった。きり丸は、己の目の甘さに怒りを覚えた。

 少女は目を細め、とどめとばかりにこう言い放った。

「ばかね、物売りは女の方が有利って知らないの?」

 その言葉は、稲妻のようにきり丸を貫いた。そして、言葉では言い表せない程の悔しさに胸が引き絞られる。負けた。この女に、商売で負けた。屈辱である。

 少女は軽い足取りで去ってゆく。きり丸の腹の底で炎が燃え上がった。その炎は、闘志という名前であった。






半 助 が 出 て い な い ! !
すいません、次で絡みますたくさん! ええ、それはもうたくさん!
半助編に続くわけですが、ちゃんと落とせるかなあ……頑張ります。
ではとりあえず、つづく! ということで!