■闇を食う■


「闇鍋がしたい」

 八左ヱ門は、いつものメンツに一斉送信でメールを送った。帰って来た返事は、「雷蔵が来るなら行く」「豆腐入れても良いよな」「面白そう!」「えーと何を持って行くべきなのかえーとえーと」。一部分かりづらいが、答えは全てイエスである。そんな訳で、いつもの五人で集まって闇鍋会をすることになった。










「よーし、じゃあ電気消すぞ!」

 出汁の準備が整ったところで、八左ヱ門は宣言した。三郎、雷蔵、兵助、勘右衛門の四人が頷くのを確認してから、カーテンをしっかりと閉めて部屋の電気を消す。それで、真っ暗になった。心が躍る。きっと、ろくでもない鍋が出来上がるはずだ。それが、楽しみで仕方が無かった。

 八左ヱ門は、友人たちが何を持って来たか、なんとなく予想を立てていた。

 兵助は宣言通り、豆腐しかないだろう。安全圏である。勘右衛門は、甘味を持って来たのではないだろうか。危険球その一である。そして、三郎は想像の斜め上をいくような、とんでもないものを持参している気がしてならない。危険球その二だ。

 そして、不破雷蔵。八左ヱ門は、彼こそがダークホースであると睨んでいた。雷蔵は何を持ってゆくのか、悩みに悩んだことだろう。きっと、スーパーでうろうろしながら、延々考えたはずだ。そして、悩むのが面倒になり、足を止めたとき……そのとき目の前にあったものを「もうこれでいいや」と買い求めたのではないか。つまり、野菜売り場で立ち止まったなら野菜を、果物売り場であれば果物を、乳製品売り場であれば乳製品を持って来ている気がする。彼が考え疲れた場所が何処であったのか……それが天下分け目である。

 八左ヱ門は、わくわくしながら自分の持って来た食材を手元に準備した。彼の持って来たものは、マロニーと豚肉。普通である。完膚無きまでに普通である。闇鍋はめちゃくちゃになればなる程面白いが、鉢屋三郎、不破雷蔵という予測不能コンビがビッグバンを起こす可能性があるので、八左ヱ門は敢えて普通の食材を持参したのだった。

「じゃあ、各々持ち寄った食材を鍋に入れるってことで……」

 手元で何やらがさがさ言わせつつ、兵助が言った。そこに、雷蔵が笑い声まじりで「兵助、ほんとに豆腐持って来たの?」と尋ねる。兵助は「秘密」と短く答えた。

「うわ、こぼしそうで何か怖いね、これ」

 勘右衛門が言うのと同時に、ぼちゃん、と何かが出汁に投じられる音がした。それと同時に、三郎と八左ヱ門が叫ぶ。

「あっつ! 汁跳ねたあっつ!」

「こっちにも飛んで来たあっつ!」

「あ、ほんとに? ごめんごめん」

「……これ、いつになったら食べられるのか、分かんないね」

「まあ、しばらく待とうぜ」

「みんな、何を持って来たのかなあ」

「あれ、ふつうにいい匂いしてんね」

「そろそろいける? いけるかな?」

「よし、じゃあ、食おうぜ! 箸をつけたものは、絶対食えよ!」

 八左ヱ門は、箸を構えた。目が慣れて、鍋の輪郭くらいは見えるようになった。そのど真ん中に箸を突っ込み、適当に引き揚げる。そして、掴んだものを口に入れる。やわらかで弾力のある食感。熱い。粘りがある。餅だ。更に、自分の入れた豚肉もくっついてきた。美味い。

「餅入れたの誰ー?」

 尋ねると、「あ、ぼく」と雷蔵が返事をした。彼が立ち止まったのは餅売り場だったか。

「あっ!!」

 突然、勘右衛門が大きな声をあげた。八左ヱ門は「何なに、何が入ってた!?」と尋ねる。来たか。ついにイロモノ具材を引き当てたか。そう思うと、胸がときめいた。

「めっちゃ美味いつくねが入ってる……」

 ほうっと、勘右衛門がうっとりとした声で呟く。

「あ、それ、おれだ」

 三郎が答えた直後、勘右衛門と八左ヱ門と兵助は「えっ!?」と驚きをあらわにした。

「鉢屋はもっと変なものを持って来ると思ってた!」

「雷蔵も食うのに、変なものなんて入れないって」

 当たり前のことのように三郎は言う。ああ、そうか。そうだ。こいつはこういう奴だった。しまった。誤算であった。

「マロニー美味い」

「あっ、つくね当たった。本当だすごい美味しい」

「雷蔵も食ってよ、つくね。ええと、この辺りに入れたはず」

「ええ、教えるのずるいって鉢屋。おれも、もいっこ食べたい」

「あはは、やっぱ豆腐入ってた」

「雷蔵、つくね取った?」

「まだー」

「マロニー美味い」

「三郎、さっきからマロニーばっかり食べてないか」

「マロニーばっかり当たるんだよ。おれは雷蔵の餅が食いたい」

「ぼくの餅っていうか、サトウの切り餅だよ?」

「それでも良いの!」

「うっわ、つくねうめえ!」

「おいおい、お前ら雷蔵が食う前にあんま食うなよ!」








すいません書くのがたのしくって、30分とっくにオーバーしてました……!!
ここいらで打ち切り!
この後、八左ヱ門が無言で電気つけて、
「普通の鍋じゃねえか!!」
ってキレます。誰もボケずに、普通の具材を持って来てたのでした。
深読みしてボケなかった八左ヱ門の負けです。
勘右衛門も、八左ヱ門と一緒で「鉢屋と八左ヱ門が変なもの持って来るはずだから、自分は普通の具材を持って行こう」って思って、作中では振れてないですが白菜と大根を入れました。ほんと普通!
ワイワイやってる五年は本当にたのしいな……リク有難うございました!