※現代パロディで女体化です
※性別以外の設定は「ノバディノウズ」や「フロウハロウ」と同じです
※参考までに、↑の人物設定
※女くくちが、忍者だった頃の竹谷八左ヱ門にほんのり好意を抱いています
■マーガレット■
「……もう嫌、ほんと、嫌」
わたしは緑色に濁った池に向かって呟いた。水面に、ぶわりと波紋が広がる。そうしたら、側で腰を下ろして携帯をいじっていた尾浜が、にっこにこの笑顔をこちらに向けてきた。
「え、何なに、また昔の夢を見たの?」
尾浜の言うことは当たっていた。わたしは日ごと、昔むかしの夢を見る。そしてその記憶がわたしを苛み、深く苦しめているのである。
「もーー嫌だ! 耐えられない!」
「こないだは、逆にうける、って言ってたじゃん」
静かな声で言ったのは、わたしの反対側の隣でパックの豆乳をすすっていた久々知だ。わたしは彼女に反論する。
「こないだはな! でも今は違うんだよ! あの訳の分からん夢のせいで、最近ロクなことがない!」
「そうなの? 例えば?」
問われて、しばし黙る。本当に、最近嫌なことばかりが起こる。しかしそれらは、どうにも口にしづらいことなのである。特に、女子としては。なのでわたしは、ごくごく小さな声で言った。
「……足がでかくなった」
「は?」
怪訝そうな表情で聞き返してくる久々知に苛立ち、わたしは結局大声で叫ぶ。
「足がでかくなったんだよ! この歳で! 24.0だったのに、最近それだときついの! ていうか正直、24.5も危うい! お陰で、上履きから体育館シューズから何から全部買い換えだよ!」
身長が特別高いわけでもないのに、足だけがでかいなんて辛すぎる。お金も無い。最悪だ。
「そういえば竹谷、声低くなった?」
尾浜は指を鳴らし、わたしを指さした。 わたしの口から、ひあああ、という変な声が漏れる。
「それ不破にも言われて、すっごいショックだったんだけど! 背も伸びてるし、何か最近がに股になったきたし……」
「いや、がに股は前からだったよ」
豆乳のパックを手で潰し、久々知が淡々と言う。わたしはそれにまた、地味にショックを受けた。え、わたしがに股だったの? 前から? え?
「つまり、だんだん男らしくなってきてるんだ」
尾浜は、ぱちんと携帯を閉じる。わたしは泣きそうになりながら頷いた。
「そう! そういうこと! たまに『おれ』とか言いそうになるし!」
夢の中のわたしは、とてもガサツな男だった。わたしも、まあ、そんなに楚々としているわけではないけれど、飽くまでも「女」の規格内に収まっていると思っていた。それが、ここ最近、夢に引きずられているのか何なのか、自分の中にあったなけなしの女らしさというものが、どんどん失われてゆくのが手に取るように分かるのである。明らかに女性ホルモンが足りていない。段々、「竹谷八左ヱ門」に近付いている自分を自覚する。このまま、ヒゲでも生えてきたらどうしようかと、半ば本気で危惧しているのだった。
「でも、別に良いんじゃない、男っぽくなっても」
「また久々知は、そういう適当なことを……!」
わたしは絞り出した。久々知は、手に提げていたスーパーの袋から二本目の豆乳パックを取り出し、ストローを差した。一体、何本飲む気なのだろう。そんな彼女は、このように続けた。
「いや、良いじゃん。わたし、竹谷八左ヱ門のこと、結構好きだし」
その言葉は、わたしの頭を白く染めた。この女は何を言っているのだろうと思った。尾浜が、きゃああ、と高い声を出す。
「ええーっ! 何なに、久々知ってそうなの? そうだったの!? 前から? ねえ、前から?」
はしゃぐ尾浜に、久々知は冷静に答えた。
「いや、わたしが久々知兵助だったときは、普通に友達だと思ってたよ。でも、女目線で見たら、ああいう男、結構アリだなあ、って」
そこでようやく、久々知の言葉を理解した。好きってそういうことか。恋愛対象という意味での好きか! 突然のことに、わたしの顔は一気に熱くなった。
「えっ、ちょっと何、やめて! そういう目でおれを見ないで!」
思わず自分の身体を抱きしめ、久々知から距離を取る。直後、うっかり自分のことを「おれ」と言ってしまったことに気が付いて死にそうになる。前世系の俺女。最悪だ。こんなんじゃ絶対にモテない。さようなら、わたしの青春。さようなら、夢のリア充。
「ええーっ、ていうか、竹谷八左ヱ門、臭かったじゃん!」
けたけたと笑い転げ、尾浜は無邪気に物凄いことを言い放った。
「お、おまえ……! 本人の前でそういうこと言うかよ!」
「別に、今の竹谷が臭いなんて言ってないじゃん。竹谷八左ヱ門が臭い、ってだけで」
「同じことだろ! しょうがねえじゃん生物委員なんだから! ていうか、牛や馬の匂いは別に臭くねえし! 臭く! ねえし! あいつらめっちゃ可愛いし!」
「ああほら、竹谷、ゴッチャになっちゃってるから」
久々知にポンポンと背中を叩かれ、わたしは我に返った。そして絶望する。
「……もうやだ、わたし絶対彼氏出来ない……」
わたしは膝をついて項垂れた。そして己の不幸な運命を呪うのであった。
「五年の女性転生バージョン、設定はサイト連載のままで」
5分ほどオーバーしました。
記憶有組の女体化です。女子になっても、前世の記憶にアイデンティティが引きずられる竹谷さん。無邪気に竹谷さんの心をえぐる尾浜さん。(悪気ゼロ)何を考えてるか分からない久々知さん。
ほんとはこのあと、久々知さんと尾浜さんが女目線で前世の自分たちを無遠慮に品評し出して、思考が男寄りになりつつある竹谷さんは「ちょ……何……い組こわい……」ってガクブルする、ってとこまで考えてたんですが、流石に30分では無理でした。
新鮮で楽しかったです! しかし文章で女体化はやっぱり難しい……!
リク有難うございました!
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