■饅頭は竹谷くんの自腹です■
竹谷八左ヱ門は、突然の破壊音で目を覚ました。とある休日のことであった。
「……何だよ……朝っぱらから……」
目をこすりつつ、寝返りを打つ。もう一度寝るつもりであった。そうしたらまた、破壊音。八左ヱ門は、布団の中で眉をしかめた。日が昇りきるまで寝ていようと思ったのに、こう五月蠅くては眠れやしない。
寝ぼけた頭のまま、部屋を出る。そうしたら、廊下に寝間着姿の久々知兵助と尾浜勘右衛門を見付けた。彼らは、鉢屋三郎と不破雷蔵の部屋の前でうろうろしている。どうやら騒ぎは、同級の三郎と雷蔵の部屋で起きているらしい。
「何かあったの……」
欠伸をしながら、兵助と勘右衛門の方に近付いてゆく。勘右衛門が、「あっ、八左ヱ門!」と声をあげた。それにかぶせて、
「お前がそんな奴だとは思わなかった!」
という、雷蔵の叫びが聞こえてくる。
「三郎と雷蔵が喧嘩してるみたいで……。止めに入ろうかどうしようか、勘右衛門と話してたとこだったんだ」
不安そうに言うのは、兵助である。八左ヱ門は再び欠伸をしながら、右足で左足をがりがりと掻いた。一番最初に思ったことは「またかよ」であった。
「放っといたら収まるって……」
そう言ったら、勘右衛門が泣きそうな面持ちで首を横に振った。
「でも、ずっとあんな調子なんだよ」
「どうせ、しょうもないことが原因だろ」
「何か、白味噌とか赤味噌とか言ってるけど」
兵助は、締め切られた戸を指差した。中から、「分からず屋!」という三郎の声が漏れる。
「ああ……雑煮の味付けだ、そりゃ。昨日の夕飯時に、そんな話してたわ。一晩中やってたのか」
あいつらも暇だな……と呟いて、八左ヱ門は踵を返した。
「えっ、八左ヱ門、帰っちゃうの?」
「まあ、待ってろって……」
非難めいた口調の勘右衛門に手をひらりと振ってみせ、八左ヱ門は自室へと戻った。そしておもむろに戸棚を開け、中から饅頭をひとつ掴みだした。
廊下に戻る。中の言い争いは、更に激しくなっているようだった。勘右衛門と兵助は、八左ヱ門の手にある饅頭を見て、揃って首を傾げた。
八左ヱ門は大股で三郎たちの部屋に近付き、勢いよく戸を開けた。そして、中に饅頭をひょいっと投げ込み、また戸を閉める。
「何だ、今の」
兵助が、大きなまなこをぱちぱちさせた。
「まあ、開けてみろよ」
親指で三郎たちの部屋をしめすと、兵助と勘右衛門は一斉に部屋の戸に飛びついた。がらり、と開け放つ。直後、ふたりは「あっ」と声を引っ繰り返した。
「仲直りしてる」
「ふたりで饅頭食ってる」
「だろ? そんじゃ、おれは寝るから」
八左ヱ門はひときわ大きな欠伸をして、心置きなく二度寝するため自室へと戻った。その際、背後で兵助と勘右衛門が「……いや、何がどうなってこうなんの?」「ろ組わかんねー」などと話しているのが聞こえたが、とかく眠かったので聞こえないふりをしておいた。
「しょうもない事で大喧嘩して周囲を心配させておきながら、あっさり仲直りしていちゃつきだす鉢雷と、振り回されて疲れるい組と何かもう慣れた様子の竹谷」
でした!
21分で書きました。小ネタなのでサラッと。
鉢雷に対してベテラン(?)な竹谷って良いですよね!
あと、しょうもないことで喧嘩する鉢雷いとしい……。
雑煮の味付けで喧嘩=新年も一緒にすごす
ってことです。ハイハイご馳走様!
リク有難うございました!
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