■お残しは■
それはランチどきのファミレスでのことだ。三郎が料理を食べ終わってフォークを置いたら、一緒にいた雷蔵が突然「あっ!」と大きな声を出したのだった。
「な、何。どうかしたの、雷蔵」
三郎は驚いて、身を乗り出した。すると彼は眉を寄せ、三郎の皿を指さした。
「グリーンピース」
「うん?」
「グリーンピース残してる」
言われて、三郎は自分の手元を見た。皿の端に避けた、数粒のグリーンピースが目に入る。つけあわせのポテトサラダに混じっていたものだ。
「ああ、うん。冷凍のって不味いし」
三郎はフォークを手に取り、やけに鮮やかな緑をした豆をつついた。雷蔵は、ますます険しい顔になる。
「これが小学校の給食だったら、居残りだよ」
「ああー、そういえば、グリーンピースが食えなくて残されてる奴、いたなあ」
遠い記憶を掘り起こし、三郎は笑った。確かにいた。掃除の時間になっても、涙目になって給食の盆と向き合っている奴。すると、雷蔵は不服そうに唇を尖らせた。
「ぼくもそのひとりですけど」
「え、そうなの?」
意外な言葉に、三郎は顔を上げた。雷蔵の好き嫌いは、あまり聞いたことがない。何でも美味い美味いといって食べるイメージだ。そんな彼にも、辛い過去があったのか。
雷蔵は手を伸ばし、三郎の残したグリーンピースを指でつまみ、ひょいひょいと口の中に放り込んだ。
「食べてるじゃん」
「今は食べられるようになったけれど、小さい頃はどうしても駄目だったんだよ」
もぐもぐと口を動かし、「でも、不味い」と言いながら呑み込む。ならば食べなければ良いのに、と思った。
「だから未だに、グリーンピースを見ると、給食のことを思い出すんだよ。ぼくの学校、グリーンピースサラダっていう殺人兵器みたいなメニューがあってさあ。牛乳でちょっとずつ流し込んでいくんだけど、200mlしかないじゃん? 足りるわけなくてさ……ああ、もう、ほんとにきつかった。あれは」
「グリーンピースサラダ……それは確かに強烈だな」
食器に盛られるグリーンピースの山を想像して、三郎は胸が悪くなった。
「食べられないの、ぼくだけじゃなかったんだよ。毎回、教室に五人くらいは残ってたもの。それが唯一の救いだったよ。ひとりで残るのって辛いし……。でも、ひとり抜け、ふたり抜けしてゆくのを見送らないといけないのは、別の意味でしんどかったなあ……」
いつになく饒舌な雷蔵は、口に残ったグリーンピースの味を消すためか、手元の水をぐいぐい飲んだ。それをたまたま見ていたウェイトレスが、すぐに水を注ぎ足す。雷蔵は「有難うございます」と礼を言って、またコップの水を一気に飲み干した。
だから、そんなに嫌なのならば、食べなければ良かったのに。
三郎はそう思ったけれど、なんとなく言える雰囲気ではなかったので黙っていた。
「だから、三郎は良かったね。ぼくがグリーンピースを食べてあげられる人間で」
真面目な顔で、雷蔵は言った。正直、彼の言うことはまったく分からなかったけれど(大体、これは給食でもなんでもない)、凛々しいその顔がとても格好良かったので、素直に「うん、有難う」と礼を言った。雷蔵は頷いた。とても、満足そうだった。
20分くらい。結構時間余りました。
しかしこれは意味が分からないですね……すいません……!
グリーンピースサラダは創作です。そんなメニューほんとにあるのかな……。もし実在したら、きっとみんなお残ししまくるよね。
現代三郎は偏食なイメージです。しかも何が嫌いってわけでなく、「不味いものが嫌い」みたいなそんな。
雷蔵は子どもの頃は偏食だったけど、気合いで大部分を克服し、今も嫌いなものはちょこちょこあるけれど、三郎の料理に含まれている場合は食べられる……とかだと大変嬉しいです。三郎とわたしが。
ほんとうに、かよく分かんない話になってしまって申し訳ないのですが、リク有難うございました!
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