■激■


 あっ七松先輩だ、と竹谷八左ヱ門は一目で分かった。課題で忍び込んだ城でのことである。天井裏で城内の様子を探っている最中、眼下に七松小平太の姿を見付けた。彼は兵士としてこの城に潜り込んでいるようで、具足を身につけていた。右手に、長い棒を持っている。流石に勇ましい、と八左ヱ門は感心した。彼は忍びよりも、こういう役どころの方が似合っている気がする。

 それにしても、六年生もこの城に来ているとは知らなかった。八左ヱ門は城の見取り図を作成するのが目的だが、小平太はまた別の課題で此処にいるのかもしれない。

「六松殿!」

 別の兵士が、小平太を呼び止めた。小平太は、そちらに身体を向ける。六松とはまた、おざなりな偽名を名乗ったもんだ。八左ヱ門は、噴き出しそうになった。その瞬間、小平太の目がぎらりと天井を睨みつけた。やばい、と思うとほぼ同時に、小平太の怒号が響き渡った。

「曲者!!」

 彼はそう叫ぶなり、手に持っていた棒を思い切り天井めがけて投げつけた。八左ヱ門は、慌てて横向きに転がった。鈍い音を立てて、棒が天井を突き破る。

「こっわ……! なんつう無茶をする人だ……!」

 天井板からにょっきりと伸びた棒を見て、八左ヱ門は震え上がった。そして直後、それよりも早く逃げなくては、ということに思い至る。

「曲者だ! 兵を集めろ!」

 下は、あっという間に大騒ぎとなった。あと少しで課題完了だったのに、と八左ヱ門は歯噛みしたくなった。しかも、同じ忍術学園の先輩に邪魔されるとは。一体、七松先輩はどういうつもりなのだろう。


一、屋根裏に潜んでいるのが、学園関係者だと気付いていない

二、学園関係者だと気付いているが、こちらを攻撃せざるを得ない事情がある

三、ご乱心


 さあ、正解はどれだ。八左ヱ門は闇の中を駆けながら考えた。どれも有り得るから困る。あの人の考えることに枠なんて無い。三番だったらどうしよう。殺されるかもしれない。

 八左ヱ門は、庭の茂みの中に飛び込んだ。すぐ側を、兵士が駆け抜けてゆく。八左ヱ門は息を殺して、それをやり過ごした。すぐにこの場から出て城の敷地外に脱出したいが、間断なく城の人間が周囲をうろつくのでそれが出来ない。

 やばい。これはやばい。掛け値無しに危機一髪だ。

 八左ヱ門は、奥歯を噛んだ。直後、誰かに頭をつかまれ、ぐるりと無理矢理に首の向きを変えさせられた。

「此処に居たか」

 そこにいたのは、七松小平太であった。城の人間でなくて良かった、と八左ヱ門は安堵した。先程と違って、今回はまともに顔を合わせたのだから自分が学園関係者だと分かったはずだし、助けてくれるはずだ、と思った。が。

「さあ、覚悟しろ、曲者」

 そう言って小平太がうすく笑ったので、八左ヱ門は自分の血が冷たくなってゆくのを自覚した。

 ちょっと待ってくれ、この人は何を言っているんだ。学園で何度も顔を合わせているし、一緒に演習を行ったこともあるのだから、自分の顔は知っているはずだ。といかそれ以前に、装束を見れば味方であることは一目瞭然である。

 八左ヱ門は慌てて、矢羽音を送ろうとした。が、思い切り頬を張られて、かなわなかった。

「…………っ」

 視界と頭が揺れる。手加減なしの平手であった。直後、小平太は八左ヱ門の身体を地面に押さえつけ、腕を捻り上げた。骨が軋み、額に汗が噴き出した。しかしどうにか、悲鳴をあげることだけは堪える。

「曲者、おまえは何処の手の者だ」

 小平太が、楽しそうにも聞こえる声で告げる。本当にこの男は忍術学園の七松小平太だろうか、と思った。

「そうかそうか、答えたくないか」

 何も言っていないのに、小平太は勝手に納得したように頷いた。小平太の足が、地に伏せる八左ヱ門の背にめり込んで胸が苦しくなった。

「ならば、言いたくなるようにしてやろう」





お題は、「こへ竹で捕食者暴君と獲物な八左ヱ門の裏要素含むダークシリアス」でした。
ああー時間切れです……!
小平太は別件で潜入してたんですが、ちょっとドジって城の人間にマークされてて、監視がついてるんです。
なので、八左ヱ門と面識がないように振る舞っております。
そんで、「いやーこれも演技だから、仕方ないから」っていう感じで、そんなん言いつつノリノリで八左ヱ門を犯す……っていう話を考えていましたが、全く時間が足りませんでした!
裏要素入らなかったし、そもそもこれ、別にダークシリアスじゃない……。
書いてる内に楽しくなってきたので、これはもしかしたら最後まで書くかもです。
何だか色々とすみませんでした。リクありがとうございました!