■ひともじ■
あまりにもすることが無くて暇だったので、竹谷八左ヱ門は久々知兵助の部屋を訪ねた。そうしたら、そこには級友の鉢屋三郎と不破雷蔵が居た。彼らはきっちり等間隔に並んで、真っ直ぐな姿勢で床に横たわっていた。何とも異様な光景だった。
「.……何やってんの」
「『三』の字をつくってる」
真面目な顔で兵助は答えた。確かに、三人並んだその姿は「三」の字に見える。どうやら、彼らも相当暇らしい。
「で、何か用か、八左ヱ門」
「……いや、暇だから何か面白いことでもねえかな、と思って」
「四人で『四』の字でも作るか」
兵助は相変わらずの真顔である。それを聞いて雷蔵が「流石に無理じゃない?」と難色を示す。三郎は「いや、頑張れば何とか……」と活路を模索している様子だった。
八左ヱ門は、彼らの奇行に自分も組み込まれているのが不本意で仕方無かった。しかし、少し楽しそうだとも思った。そして次の瞬間、そう考えてしまった己に絶望する。おれも、どれだけ暇なんだ。
「おおい、大変だ、大変だ!」
荒々しい足音ともに、尾浜勘右衛門が部屋の中に転がり込んできた。『四』の字をつくるための話し合いをしていた兵助たち三人と八左ヱ門は、一斉に勘右衛門の方を振り返った。
勘右衛門の頬はほのかに赤らみ、その目はきらきらと輝いていた。
それを見て、八左ヱ門は確信した。勘右衛門は、この砂地獄のような退屈から自分たちを救い出してくれる存在だと。
「喧嘩だよ、喧嘩!」
喧嘩。その響きに、八左ヱ門の心は僅かに上向きになった。確かにそれは面白そうだ。早く見物にゆかなければ。
「用具倉庫の近くで、六年生が喧嘩してる!」
続く勘右衛門の言葉を聞き、八左ヱ門は浮かせかけた腰をふたたび床に下ろした。
「……どうせまた、食満先輩と潮江先輩じゃないのか」
ややうんざりとした面持ちで言ったのは、三郎だ。八左ヱ門も同感であった。食満先輩の潮江先輩の喧嘩なら、日常茶飯事だ。取り立てて見に行く程のものではない。
しかし勘右衛門は、勢いよく首を横に振った。そして、興奮気味にこう叫んだのだった。
「ちっがうって! 立花先輩と善法寺先輩だよ!」
「馬っ鹿野郎、それを早く言えよ!」
八左ヱ門は大急ぎで立ち上がった。他の三人も続く。立花先輩と善法寺先輩が喧嘩するなんて珍しい。これは、そうそう見られるものではない。
……しかし、彼らが用具倉庫に着く頃には、全てが終わってしまっていた。そこには誰もいなかった。しかし痕跡は数多く残っていた。地面には、立花先輩が放ったと見られる焙烙火矢の爆発した跡があり、白煙が薄くその場を覆っていた。更に、厠の落とし紙が辺り一帯に散らばり、見物の為に集まったのか居合わせたのか分からないが、下級生たちが必死になってそれを拾い集めていた。
「見損ねたか……!」
八左ヱ門は掌で額を覆った。
「どっちが勝ったんだろうね、これ」
落とし紙拾いを手伝ってやりつつ、雷蔵が呟く。雷蔵がやるならば、と共に落とし紙拾いに参加していた三郎が、「案外、相討ちかも知れないぞ」と笑う。
「焙烙火矢と落とし紙が戦って、相討ちなんてことがあるか? しかも伊作先輩は、あの不運だぞ」
言いながら、八左ヱ門も落とし紙拾いに加わることにした。暇だからだ。そうしたら、兵助と勘右衛門も地面に散らばる紙を拾い始めた。
中途半端ですが30分……!
「五年生と喧嘩」というリクですが、五年が喧嘩していなくても良いとのことだったので、仲良し五年を書かせて頂きました。
でも、五年の喧嘩も書いてみたいです。意外な組み合わせで。雷蔵と兵助とか!
あと、仙蔵と伊作の喧嘩ってどうなんでしょうね……このふたりが喧嘩したら、あんまりバトル展開にはならなそうですが!
オチてなくてすみません、リク有難うございましたー!
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