■構って欲しい三郎はきっとうざい■
委員会室に入ったら、鉢屋三郎が大の字の格好で横たわっていた。そして彼は、これみよがしにため息をつく。
「あーあ……」
勘右衛門はすぐさま戸を閉めてこの場から立ち去りたくなったが、この部屋に用事があるので残念ながらそれは出来ない。
「…………」
なるべく鉢屋の姿を視界に入れないようにしつつ、棚の中から前年の予算会議用書類を探す。
「あーあー……」
先ほどよりもわざとらしいため息が響くが、それと同時にこちらも不自然な咳払いをして相殺した。視線は頑なに、棚へと向けたまま固定する。
「あーああーー……」
三郎の吐息を背に、やっと書類の束を見つけた。一枚一枚、丁寧に検分してゆく。その間にも、三郎のため息攻勢は続いていたが、一分たりとも反応しなかった。彼の言いたいことは大体分かっている。ここに来るまでに、三郎に関するちょっとしたうわさ話を耳にした。多分、それについての話をしたいのだろう。
勘右衛門は、出来ればそれを聞きたくなかった。何故ならば、ものすごく、くだらないから。
「おい勘右衛門」
……とうとう、名前を呼ばれてしまった。こうなれば返事をしないわけにもいかないので、仕方なく「なんだよ」と答える。
「お前は、憂いを抱える友の様子が気にならないわけ?」
「ええー。だってどうせ、あれだろ? 熱出した雷蔵が寝てるから保健室には入っちゃ駄目、って言われてんのに、無理矢理見舞おうとして新野先生と保健委員総出で叩き出された、って話だろ」
「知っているのなら話は早い。彼らには人の心が無い……そう思わないか勘右衛門」
せつなげな声で三郎が呟く。
「どう考えても鉢屋が悪いよ」
「おれはただ雷蔵のことが心配だっただけなのに、最終的には箒でごみを掃くみたいにして追い出されたんだぞ。おかしいじゃないか」
「なあ鉢屋、この書類に押してある印って何処にあんの」
「そもそも、別におれはうつされても良いって言っているのにさあ」
「そういうの、世間では戯れ言って言うんだよ。良いから印の置き場教えてよ」
「はあ……世間は冷たい……。こんなことじゃ、日の本の行く末も思いやられる」
「日の本のことを案じるのも良いけど、印は」
「……お前が一番冷たいよ、勘右衛門」
「そう?」
勘右衛門はめいっぱいの愛と友情を込めた笑顔を、ふくれっ面の三郎へと向けた。
スルースキルに長けた勘右衛門、でした……が
何かほんと冷たい感じになっちゃった……?
こんなんでも二人は仲良し!! です!
新野先生+保健委員VS鉢屋三郎、も面白そうだなーと思いました。
「フハハハハ不運風情が!」
完全に三郎が悪役。
病床の雷蔵にも、三郎と保健委員の攻防の様子はなんとなく伝わっていて、三郎はしょうがないなあと苦々しくなりつつも、ちょっと嬉しいんです。結局鉢雷です。
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