(現代・桃缶×恋仲)

 おれのいとしい人は、深夜になってからべろべろに酔っ払って帰って来た。

「三郎、ただいまあ」

 雷蔵は赤い顔で笑っていて、とても上機嫌だった。しかし足下はだいぶおぼつかなく、殆ど倒れ込むみたいにして玄関にあがる。

「……お帰り、雷蔵」

 ため息と共に、言った。雷蔵をひとりで飲み会に行かせたことが悔やまれる。こんなことならゼミなんて放り出して、無理にでもくっついて一緒に行けば良かった。

「雷蔵大丈夫? 気持ち悪くない?」

「ぜんぜーん」

 雷蔵は勢いよく、ぶんぶんと頭を振った。

「じゃあとりあえず、靴を脱ごうか」

 おれは、靴を履いたまま座り込む雷蔵の足を指さした。しかし彼は笑うばかりで動こうとしない。仕方が無いので、おれは屈んで、履き込まれた黒いスニーカーに手を伸ばした。そうしたら、雷蔵は軽くおれの背中を叩いた。

「ただいまのチューが先でしょ?」

「…………」

 おれたちの間に、そんな習慣は存在しない。むしろ、雷蔵はそういうのを嫌がるタイプだ。それなのに、まさかの要求である。どれだけご機嫌なのだろう。やばい、と思う。雷蔵が可愛くてやばい。

 腹の中で欲望が頭をもたげるのを感じつつ、おれは雷蔵の肩を引き寄せて軽くくちびるを重ねた。やわらかくて心地良くて、そしてとてつもなく酒臭い。

「……どんだけ飲んだの」

 眉を寄せて尋ねると、雷蔵は嬉しそうに答える。

「ビールたくさん。あと、ししゃも」

「ししゃもは飲んでないでしょ」

「よく噛んで食べました」

「それは良かった」

 何だこの会話……と首を傾げ、雷蔵の足からスニーカーを引き抜いた。そのまま彼の脇の下に腕を差し入れ、抱えるようにして立たせる。

「雷蔵、その袋は何?」

 雷蔵が手にコンビニの袋を提げていることに気が付いて、おれは訊いた。雷蔵は目をとろんとさせて、一言「もも」と言った。

「桃?」

「そう。食べたくなって買って来ちゃった。三郎、開けて」

 雷蔵はおれの胸にコンビニの袋を押しつけた。