■ヘイヨーメイヨー■


「……今って、三月だよな?」

 鉢屋三郎は白い空を見上げて呟いた。隣にいた不破雷蔵も「そのはずなんだけど……」と言いつつ空を仰ぐ。視界を覆うのは白くつめたい粒。雪だ。先程から、大粒の雪がどんどん降ってきているのである。暦の上ではとうに春だというのに空気は冷たく、雪は止むどころか勢いを増してゆく。

「あっははは! すっげえ! 積もらねえかな、これ!」

「そしたら、引き分けのまま終わってた雪合戦の決着をつけるのにな!」

 大はしゃぎしているのは、竹谷八左ヱ門と尾浜勘右衛門である。三郎は、呆れて溜め息をついた。

「何が楽しいんだよ……。雷蔵、あいつらは放って置いてさっさと帰ろう」

 でないと風邪を引いてしまう、と続けて三郎は雷蔵の腕を取った。雷蔵は「うん……」と頷きつつ、もうひとりの友人、久々知兵助の方に視線を向けた。

「……兵助、どうしたの」

 久々知兵助は、直立の姿勢でじっと空を見つめていた。長い睫毛に、雪が絡まっては溶けてゆく。

 目線を上空に固定したまま、白い吐息とともに彼は言った。

「アイス食いたい」

 ほんの一瞬の沈黙。直後、三郎は「は?」と眉をひそめ、八左ヱ門は「良いねそれ!」と叫んだ。

「おれもアイス食いたい! 雪が止まない内に買いに行こうぜ!」

 勘右衛門も賛同する。雪はますます激しくなってきた。季節外れの雪が、彼らのテンションをおかしくさせているのである。

「やっぱここは、雪見だいふく食うべき?」

「雪見だいふく! それだ!!」

 八左ヱ門と勘右衛門は大盛り上がりである。三郎はそんな彼らに呆れ返っていた。雪が降っているのである。寒いのである。くわえて、誰も傘を持っていないので、彼らは既にだいぶ濡れてしまっているのである。そこに、アイス。正気の沙汰とは思えない。どうやらこいつらは、本物の阿呆のようだ。

「雷蔵、帰ろうよ」

 三郎は、雷蔵の手を引いた。しかし彼は目をぱちぱちさせ、こう言ったのだった。

「え、何で? アイス食べようよ」

「えっ、ええええ! 雷蔵まで何を……」

「雪見だいふく、久々に食べたくなったし」

「何も今食べなくても……」

「三郎も一緒に食べようよ。半分こしよう」

「……半分こ?」

 無理矢理雷蔵を引っ張って帰ろうとしていた三郎は、はたと動きを止めて雷蔵を見た。雷蔵はにこやかに微笑んでいる。その頭に、肩に、雪がはらはらと落ちてゆく。

「食べない? 雪見だいふく」

「……食べる」

 三郎は頷いた。八左ヱ門立ちはもう、コンビニに向けて歩き出している。

 空は白い。風も強い。雪が舞う。いわゆるひとつの、アイス日和である。






23分くらい!
……なんだろう、これ!
みんなで雪見だいふく! な流れになってますが、兵助はガリガリ君がたべたい……って思ってます。(すごくどうでもいい補足)
寒い中アイスが食べたくなる五年……だなんて、何でもっと寒いときに書かなかったんだろう!
……と、若干後悔しておりますが楽しかったです。
鉢屋くんは、いつだって不破くんの笑顔に抗えない!!
リク有難うございました!