■数馬くんはきっと実習先で穴に落ちています■


 新野先生は出張。伊作先輩は腰痛で動けなくなったらしい事務のおばちゃんを診に行っている。数馬先輩は実習で、左近先輩は伊作先輩の付き添い。伏木蔵は後で行くと言っていたけれど、まだ来ていない。

 そういうわけで、乱太郎は保健室にてひとり、留守番をしていた。薬の香りがただよう保健室の空気もだいぶなじみ深いものになってきたけれど、ひとりでいると何処か心細い。

 先輩たち、早く戻って来ないかなあ……なんて思っていたら、からりと戸が開いた。先輩たち、もしくは伏木蔵が来たのかと腰を上げかけたが、そこに立っていたのは六年い組の立花仙蔵先輩だった。

「おや、伊作は留守かな」

 立花先輩はついと首を傾げた。その拍子に、真っ直ぐでうつくしい髪の毛が肩から流れてゆく。怪我をしている様子ではなく、具合が悪そうでも無かったので、単に伊作先輩に用事があるのだろう。

「伊作先輩は、腰痛で寝込んでいらっしゃる事務のおばちゃんの往診です」

「そうか……」

 立花先輩は頷き、「待たせて貰っても良いだろうか」と続けた。

「どうぞ、どうぞ」

 にこやかに答えると、立花先輩は保健室の中に入って来た。乱太郎は立ち上がった。戸棚を開けて、お茶を入れるべく来客用の湯呑みを取り出す。そうしたら、ふたたび戸が開いた。

「はあい」

 声をかけながら振り返ったら、入り口に大きな体躯を見つけた。六年ろ組の中在家長次先輩である。中在家先輩は相変わらずの仏頂面で、口元でもそもそと何事かを呟いた。

「はい?」

 まったく聞こえなかったので、乱太郎は聞き返した。すると、中在家先輩ではなく、立花先輩が口を開いた。

「わたしも伊作に用があったのだが、あいつは不在らしい。長次も中で待たせてもらってはどうだ」

 どうやら、中在家先輩も伊作先輩に用事らしい。学園一無口な先輩は、じっと乱太郎を見た。その威圧感に、乱太郎は手の中の湯呑みを取り落としそうになった。恐らく保健委員である乱太郎に、中で待っていても良いか、と伺いを立てているのである。多分。よく分からないが怖いので、乱太郎はそう解釈することにして「どうぞ、中でお待ち下さい」と促した。

 のっそりと、中在家先輩が中に入って来る。乱太郎は戸棚から、来客用の湯呑みをもうひとつ取り出そうとした。が、見当たらない。何処にやったのだろう……と考えかけて、思い出す。もうひとつの来客用湯呑みは、伏木蔵が包帯に足を取られて滑った拍子に、割ってしまったのだ。

 となると……どうすれば良いのだろう。

「どうした?」

 戸棚の前でうなっていたら、いつの間にか背後にやって来ていた立花先輩に声をかけられた。

「あ、いえ、お客様用の湯呑みがひとつしか無くて……」

「じゃあ、わたしはこれを使おう」

 立花先輩は迷わずに、伊作先輩の名前が入った湯呑みを掴み取った。そしてそれを見て、にっと笑う。楽しそうな笑みだった。

「不運がうつるだろうか」

  立花先輩もそんな風に笑うんだ、と乱太郎はとても新鮮な気持ちになった。その肩越しに、中在家先輩が腕を組み、こっくりこっくり船を漕いでいるのが見える。眠っている。ええと、それでは結局、お茶はどうすれば良いのだろう。





相変わらず6年全員を一気に出す筆力は無いので、適当に選抜しました。書いたことのない組み合わせにしよう、てことで、仙蔵と長次。
長次くんはマイペースなので、何処ででも寝るんじゃないかな、と思いました。可愛い。
乱太郎+仙様+長次って自分の中で未知すぎて、探り探りしている内に30分終わってしまった感じ……ううむ残念。
アドリブに強くなりたいものです!
タイトルは思い浮かばなくてあんなことになってしまって反省しています。