※ギャグです
■忍王・愛の劇場■
「兵助……。もう八左ヱ門には会わないって……どうしてそんなことを……」
兵助の部屋に入るなり、雷蔵はそう言った。彼の正面に立つ兵助は、雷蔵から目をそらして「……放って、置いてくれ」と、吐き捨てた。雷蔵は、落ち込む八左ヱ門の姿を思い出すとたまらなくなり、兵助の腕を強く掴んだ。
「だけど、八左ヱ門が可哀想だよ。理由も告げずに、そんな……」
「おれは! もう、八左ヱ門に会う資格なんてないんだ!」
兵助は叫び、雷蔵の手を振り払った。雷蔵はわけが分からない。昨日までは、あんなにも睦まじいふたりであったのに。
「会う資格がない、だなんて……。一体何があったんだよ!」
「…………」
兵助は答えず、雷蔵に背を向けた。その瞬間、雷蔵の胸に嫌な予感が駆け抜けた。
「兵助!」
雷蔵は兵助の背中に飛びついた。その拍子に、兵助の手に光るものが見えた。小刀である。雷蔵はそれを認めると同時に、思い切り兵助の腕に掌で打った。彼はひくく呻き、手から小刀がこぼれた。
「兵助……! 何をする気だ!」
雷蔵は青ざめた顔で叫んだ。まさか自死する気だったのか、とは言えなかった。一体、何がそれほどまでに彼を追い詰めているのか。
兵助は何も言わず、床に転がった小刀にふたたび手を伸ばそうとした。雷蔵はそれを止めるべく、兵助に飛びかかった。
小刀をめぐって揉み合う内に、雷蔵は行李に身体を思い切りぶつけてしまった。その衝撃で、行李が倒れて中身がぶちまけられた。教本やら衣服やらが床に飛び散る。そんな中、一通の手紙のようなものが雷蔵の目にとまった。
三郎、雷蔵へ
古ぼけた紙に、確かにそのように書き付けてあった。雷蔵は、えっ、と思った。まさかこんなところで、自分の名を目にするとは思わなかった。
雷蔵の視線のゆくえに気付き、兵助は、はっとした表情になった。
「雷蔵! それを見ては駄目だ!」
しかし雷蔵の手は、無意識にその手紙に伸びていた。「駄目だ!」と、兵助の悲鳴じみた声が響く。
「でも、だって、これ……ぼくと、三郎宛じゃないか……」
「駄目だ、雷蔵……! それは、絶対にお前には見せるわけにはいかないといって、三郎から預かって……」
「三郎が?」
雷蔵は眉を寄せた。兵助の頬が引き攣る。雷蔵は、「三郎、雷蔵へ」と書かれた黄ばんだ手紙を手に取った。やわらかな筆致であった。見覚えはまったくない。しかしこれが隠されていたことと、雷蔵と三郎、ふたりに宛てられた手紙であるということが、どうしようもなく雷蔵を不吉な気分にさせた。
「雷蔵、駄目だ……!」
兵助が、力無く雷蔵の腕に手をかける。しかし雷蔵の目と心は、手紙に吸い寄せられていた。震える指先で、手紙を開く。
「な……っ。こ、これは……っ」
雷蔵は、がくりとその場に膝をついた。みるみる内に、身体がつめたくなってゆく。数行しか読んでいないが、それで充分であった。
「……とうとう、見てしまったんだね」
背後から声がした。はっとして振り向く。何時の間にかそこに、三郎が立っていた。彼は、何処までもしずかな表情であった。
「さ……三郎……この手紙……」
「きみにだけは、見て欲しくなかったけれど」
三郎は淡々とした口調で言った。しかし、雷蔵の頭にはまったく入って来ない。彼自身の鼓動がうるさくて、何も聞こえなかった。
「おまえと、ぼくは、兄弟だと書いてある……」
雷蔵は、がくがくと震える口をどうにか動かして言った。
その手紙には、我が子を手放さなくてはならない女性の苦悩が綴られていた。手元に置いていては、命を狙われる。母らしいことが何も出来ずに別れなくてはならない無念と慚愧の思いが詰まった手紙であった。その子どもの名前が、三郎と雷蔵である。
どういう状況だよ。
ハイッ、 とりあえず代表してツッコんでおきました!
鉢雷と竹くくの2カプによる昼ドラ的恋愛話、です。
わたくし的昼ドライメージ
・何の脈絡もなく刃傷沙汰
・何の脈絡もなく出生の秘密の暴露
・恐ろしく早い展開
・ツッコミ所は多い方が良い
というのを詰め込んでみました。普段昼ドラを見ないので、偏見でしたらすみません!
八左ヱ門を出せなかったのが心残りですが、楽しかったです。
リクありがとうございました!
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