■未完成■
作法室の戸を開けると中で兵太夫が勉強をしていたので、伝七は大層驚いた。
「……珍しいものを見た」
戸を閉めながらぽつりと呟くと、兵太夫は教本から視線を上げて「何だよ」と不満そうな声をあげた。
「お前が勉強しているなんて」
「仕方ないだろ。明日、追試なんだから」
「自分の部屋でやれば良いのに」
「三治郎が、委員会で飼育してる毒虫を逃がしちゃって、勉強どころじゃない」
早口で言う兵太夫に、伝七はにやりと笑った。普段、からくりやら何やらで煮え湯を飲まされているこの男に、仕返しをする良い機会だと思った。
「さすが、阿呆のは組だ」
せせら笑うと、兵太夫は「うるさいな」と眉を寄せた。それから、机の上に視線を戻す。伝七は彼に近付いて、頭上から教本を覗き込んだ。兵太夫の見ている頁を見て可笑しくなり、思わず噴き出す。
「何だ、まだこんなところをやっているのか。い組ではとっくに済んだ範囲だ」
「…………」
「おい、こんなところに朱線を引いてどうするんだ。ああ、ここも間違っている。これじゃあ、追試の追試を受けなくてはならないんじゃないか?」
伝七がそこまで言ったところで、兵太夫はあからさまに不機嫌な素振りで教本を荒々しく閉じた。それからこちらを見上げて「勉強する意欲が削がれた」
と吐き捨てた。
「人のせいにするなよ。ぼくは親切で言ってやっているのに」
「これで試験に落ちたら、伝七のせいだからな」
「だから、人のせいにするなって」
溜め息をつき、伝七は自分の用事を済ますべく備品を収納している棚に歩み寄った。そのとき、視界の端で兵太夫が動く気配がした。あっと思ったときにはもう遅い。兵太夫は目にも留まらぬ速さで伝七の足を掬い、彼を床に引き倒した。
「わ……っ!」
ぐるりと視界が回る。こいつに倒されるなんて屈辱だ、とすぐさま起き上がろうとしたら、兵太夫が身体の上にのし掛かってきた。見下ろされる体勢である。耐えられない。必死で身をよじるが、腰を膝で固定されて動けなかった。
「あーあ、折角、珍しくやる気になってたのになあ」
わざとらしく息を吐き出しながら、兵太夫が言う。良いからとにかく退けよ、と言おうとしたら、手元でがちゃりと金属の嵌る嫌な音がした。慌てて視線を落とす。伝七の両手首には、金属の輪が嵌められていた。左右の輪は、鎖で繋がっている。重い。それに、鎖のせいで腕の動きが不自由になってしまった。
「何だよ、これ……!」
「用具委員と共同開発中の、絶対に外れない手枷。見た目は地味だけど、仕組みは結構すごいんだよ」
「外せよ!」
「ええー、嫌だよ」
「阿呆のは組の癖に!」
「あ、そうそう。用具委員と共同開発中の、痛い猿ぐつわもあるんだよ。こないだ、敷地内に忍び込もうとした曲者に試着してみたんだけど、すっごく痛かったみたいで泣いてたっけ。それも着ける?」
「…………」
伝七は押し黙った。兵太夫は楽しそうに笑う。
「いやあ、伝七もさあ」
兵太夫は人差し指で伝七の喉を引っ掻くように撫でた。頬が引き攣る。悪寒が走る。
「ほんと、学習しないよね」
うすく笑う顔が近付いて来た。この男にそういうことを言われると、むしょうに腹が立つ。しかし手枷が重くて動けない。足の動きは封じられている。せめて顔を背けようとしたら、両手で顔をとらえられて視線を合わされる。切れ長の目がこちらを見ている。猛禽のようだと想った。ひくりと背中がふるえる。
「そこを、退けよ」
敢えて自分もまっすぐに彼を見返してそう言うと、兵太夫はふっと笑った。それから何を思ったのか、伝七の右の耳をぱくりと口で咥えた。
「うわ!」
自分の声が、妙なふうに頭の中で反響した。耳をねぶられる。熱くてぬるぬるした舌が耳朶を這う。手がさわさわと下りてきて、着物の上から脇腹を撫で回す。腹の底が熱いような寒いような、妙な心持ちになってきた。
「やめろ、よ……!」
「聞こえないなあ」
兵太夫は耳元でくすくす笑って、帯に手を掛けてきた。ぎょっとして、伝七は必死で身体を捻ろうとする。すると兵太夫は、首筋に思い切り噛みついてきた。
「い……っ!」
鋭い痛みが走り、全身が硬直した。
「あはは、歯型がくっきりだ」
朗らかな声が忌々しい。伝七は奥歯を噛んだ。兵太夫の両手が、ゆるゆると帯を解く。噛まれた部分を舌でなぞられる。言い様もない感覚に脳が痺れて喉を反らした。
ぬあーーすいません、30分でエロは無理でした!
でもこれは消化不良すぎるので、後日続きを書きます。
折角伝七を拘束したのだもの、最後まで!(さいていすぎる……)
成長兵伝は良いですね。王道BL! という感じです。
アイルビーバック。伝七をアンアンゆわすよ!
ということで、リクありがとうございました!
とりあえず今回はここまで、ということでもちょっとお待ち下さい。
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