※「家路へと」番外編的な感じです
※↑きり丸が忍術学園入学前に土井先生に拾われる、という話です
※今回は、きり丸が忍術学園入学金を貯めてるときのお話です
■それでもさよならした分は 出会うこともあります きみにとか■
「半助、半助! ちょっと来て!」
きり丸が慌ただしく家に飛び込んできたので、半助は何事かと思ってそちらに目を向けた。
「何だ、どうしたんだ」
「すぐそこで大八車が溝にはまっちまった! 手伝って!」
「しょうがないなあ……」
「早く、早く! 売り物が盗まれるかも!」
「はいはい、分かった、分かっ」
半助の言葉が最後まで言い終わらない内に、きり丸は彼の手を取って大急ぎで駆け出した。まだきちんと草履に足を入れていなかった半助は、転びそうになった。
きり丸の大八車は、半助の家のすぐ近くに停められていた。荷台には、色とりどりの花が沢山積まれている。きり丸の身体くらいなら、すっぽりと覆うことが出来てしまいそうな数だ。圧巻である。
「ああ良かった。ちゃんと溝にはまったままだ」
安堵の息を漏らし、きり丸は大八車に駆け寄った。半助も彼に続く。近付くと、濃厚な甘い香りが鼻をくすぐった。
「ちゃんと溝にはまったまま、というのも妙な表現だが……」
苦笑いしつつ、車輪を確認した。確かに、片輪が溝に落ち込んでしまっている。半助は大八車に両手をかけ、足を踏ん張って車輪を溝から引き揚げた。
「おお、さすがあ。半助ありがとう!」
きり丸は八重歯を見せて笑った。無邪気な笑みに、何だかくすぐったくなる。半助は、ふたたび大輪の花に視線を向けた。
「それにしても、見事だなあ。今日は花売りか」
「そうそう。たっぷり売ってみせるぜ」
「へえー……」
「半助、あげようか」
なんとなく花を眺めていたらきり丸がそんなこと言い出したので、半助の口から思わず「えっ」と驚きの声が出た。
「くれる? お前が?」
信じられない気持ちで、きり丸を見た。彼はこれまでの暮らしの影響で銭や物に対する執着が凄まじく、貰うものはきっちり貰うが他人には唾でもやらん、というのが信条であった。そんなきり丸が、半助に花を。
「今日だけだけどな! 半助が持てるだけ、持って行っても良いよ。おれの奢り」
「…………」
言葉が出て来なかった。なんと言って良いのか分からない。きり丸は照れくさそうに笑っている。
「何だよ、おれだって、大盤振る舞いすることもあるよ。今日だけだけど」
だからほら、と促されて、半助は軽く微笑んだ。
「じゃあ、もらおうかな」
手を伸ばす。白い花と赤い花を一輪ずつ抜き取った。きり丸が、目をぱちぱちさせて口を尖らせた。
「そんだけで良いの? 持てるだけあげる、って言ってるのに。おれが、人に何かあげる気になるなんて、そう無いよ?」
「ああ、これで充分だよ」
半助は、手の中の小さな花を見た。そこにゆるやかな風が吹き、やわらかな花弁がふるりと震えた。
「抱えられるだけ、持って行って良いのに」
きり丸は、何やら不服そうであった。半助が、遠慮したのだと思ったらしい。
「ありがとう、きり丸。ほんとうに、これで充分だよ」
そう言って半助は、両腕できり丸をひょいと抱え上げた。軽い身体は、やすやすと持ち上がる。
「だって、わたしの手は、お前を抱えたらもういっぱいだもの」
「…………」
きり丸が、大きな目を丸くしてこちらを見ている。その口がわずかに動き、何かを言おうとしたようだったが、声は出て来なかった。半助はとても穏やかな気持ちになって、彼の身体を地面に下ろした。それから、軽くかがんで彼の頭に手をのせる。
「さあ、仕事を頑張っておいで」
しばらくきり丸は、先程と同じ何とも言えない表情でこちらを見ていたが、やがて無言で身を翻すと、大八車に向かって走って行った。
何だこれ恥ずかしい!!!!
ちょっと時間オーバーしました。ほのぼの土井きりっていうか恥ずかしい本当に……!
この後、半助は時間が経つにつれだんだん胸の中に感動がこみ上げて来て、
「きり丸が、あのきり丸が、わたしに花を……くっ……!!」
という感じでむせび泣きます。
ってとこまで書きたかったです。後日、その辺も書くかもしれません。
ほんと、わたしの中で土井きりが何処までもキラキラした存在になっていって、止めることが出来ません……!
き、きりんこさん、原作はギャグ漫画だよ……!?
しかし楽しかったです! リクありがとうございました!
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