■完璧主義という名の異常性■
ねえそれ何処で買ったの?
……というのが、最近の三郎の口癖だ。
ぼくの持ち物をあれこれ指さしては、ねえそれ何処で買ったの? と、そればかりである。
そんなこと聞いてどうするのだろうと思っていたら、三郎はぼくの持っているものと同じのを次々に集め始めた。服も、靴も、鞄も、シャーペンも、消しゴムも。携帯もわざわざ同機種に変えたし、メールアドレスはぼくのと一字違いだ。
そして、買ったものを誇らしげにぼくに見せるのである。ほら、お揃いだよ! と笑いながら。
文房具なんかの小物は何処でも買えるものが多いけれど、服や鞄なんて買った場所なんて覚えていないことの方が多いし、もう店で売っていないものだってあるはずだ。だけど彼は絶対に、何処からか入手してくるのだった。で、ほら、お揃いだよ! と満足げに胸を張る。
一番驚いたのは、ぼくが家の鍵につけているキーホルダーだ。例によって三郎に「ねえそれ何処で買ったの?」と訊かれたのだけれど、これは小学生くらいのときに、誰かから何処かのお土産でもらったもので、出所がまったく分からなかった。随分前のものだし、これは流石に入手不可能だろうと思っていたのだけれど、三郎は謎の行動力を駆使してそのキーホルダーを手に入れて来た。
「ほら、お揃いだよ!」
三郎の自宅の鍵にぶらさがるキーホルダーを見て、ぼくは唖然とするばかりだった。どうやって見付けたのと尋ねても、絶対に教えてくれなかった。彼のこの熱意は何処から湧いてくるのだろう。
彼の奇異な行動は、周囲から相当気味悪がられていて、ぼくも色んな人に「嫌なら嫌ってはっきり言った方が良い」と言われるのだけれど、何故か拒絶する気にはなれなかった。呆れはするけれど、不快だと思ったことは一度もない。だって持ち物なんて個人の自由だし。そう言ったら、「お前のその心の広さは異常だ」と言って、今度はぼくが気味悪がられた。どうしてだろう。人生ってなかなか難しい。
「ねえ三郎、どうしてそんなにお揃いにこだわるの」
食堂で昼ご飯を食べながら、ぼくは三郎に訊いてみた。すると彼は、ぼくと全く同じ長さに切った髪の毛を、指でつまみ上げた。
「髪をお揃いにしたんだから、他のものもお揃いにしなくちゃ。おれは完璧主義者なんだ」
ぼくには、彼の言う意味がよく分からない。今ぼくが食べている、サラッサラのカレーに肉が見当たらないのと同じくらい、意味不明だ。
「変人って言うんじゃないの、それ」
「そうかな?」
コーヒー牛乳のパックを手に取り、三郎は首を傾げた。それからやおらに身を乗り出し、こんなことを言い出した。
「ねえ、今のおれの首の傾げ方、雷蔵っぽくなかった?」
ぼくは眼をぱちぱちさせて、カレーをひとくち食べた。水っぽくて美味しくない。何だか切なくなってくる味だ。
「え、そんなの自分じゃ分かんないよ」
「雷蔵っぽかったよ。間の取り方とか、角度とか。雷蔵はいつも、ああやるもん」
「何でそんなこと、知ってるの?」
「研究したから」
「何で?」
「完璧主義だから」
彼と喋っていると、普通とか常識とか、そういうものをことごとく見失ってしまう。だけどやっぱり、ぼくは彼を拒絶出来ない。だって彼と一緒にいると、とりあえず退屈するこだけはないのだもの。
すいません時間がきました!
「ブルーブルー」設定現パロで、ストーカー三郎、というお題でした。
時代背景が違うと、鉢屋も不破も変人度がぐっと上がりますね。
個性を隠す必要のない身分で、雷蔵の真似をしたがる鉢屋は絶対異常だし、それを受け止める雷蔵も異常だと思います。
しかしそんなふたりの根深さに萌える。
とりあえず、いつでも何処でも三郎は変態ってことです!
楽しいリクをありがとうございました!
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