■しんしん積もるのは■
冬休みは実家に帰ろうかどうしようかと迷っている内に休暇が始まり、しかも近年まれに見る大雪に見舞われて、雪おろし要員として学園に残ることになってしまった。
「……こんなことなら、さっさと帰っていれば良かったなあ……」
踏み鋤を雪に突き刺し、不破雷蔵は息を吐いた。朝から雪かきのし通しで手が痛い。身体を動かしている間は暑いくらいだが、動きを止めたら凍えそうに寒くなる。明日は確実に筋肉痛だ。
「そうだねえ」
すぐ隣で頷いたのは、鉢屋三郎だった。彼も雷蔵と共に、学園に残っていたのだった。半纏でもこもこに着ぶくれた格好で、踏み鋤を握っている。
「……ぼくを待ってくれていたばっかりに、巻き込んじゃってごめんね、三郎」
「いいや。おれはきみと一緒にいられたら、それで良いのだもの」
三郎はにこりと笑った。彼は臆面もなく、そういうことを軽く言い放つ。雷蔵はくすぐったくなった。
「おいっ、そこ! 怠けるなよ!」
食堂の屋根から雪をどさどさと落とし、六年の潮江文次郎が眉をつりあげてがなり立てる。その後ろに、疲弊しきった田村三木ヱ門の姿が見えた。会計委員長と三木ヱ門は、帳簿の整理が終わらず帰りそびれた、とのことだった。
三郎は文次郎の方に視線を向け、「せんぱーい、もう疲れて動けませーん!」と情けない声をあげた。
「ふざけんな鉢屋! 言う程働いてねえだろうが! さっき雪うさぎ作ってたのも、足跡つけて回ってたのも、全部上から見えてんぞ!」
「違いますよおー、ぼくは不破ですよおー!」
「嘘つけ!」
「……何で分かるんだろうねえ?」
声を小さくして、三郎は雷蔵を振り返った。雷蔵は呆れて「それ、本気で言ってるの?」と目を細めた。三郎は何故か嬉しそうに笑う。
「もうひと頑張りだよー! 終わったら、食堂のおばちゃんが甘酒出してくれるってー!」
反対方向の倉庫の屋根から朗らかに声を張り上げるのは、善法寺伊作だ。保健委員会は、当たり前のように全員が帰れなかったと聞いた。流石、不運委員である。
「わ、甘酒ですか! やったあ!」
雷蔵は手を叩いた。ご褒美があるのならば、俄然頑張ろうという気になる。
「そうそう、だから頑張っ……うわあ!」
保健委員長は途中で言葉を切り、身体をぐるんと回転させた。足を滑らせたのである。
「伊作先輩!」
「伊作!」
雷蔵と三郎、それに文次郎と三木ヱ門の声が重なった。伊作が屋根から投げ出されるのが、やけにゆっくりと見えた。下は雪。とりあえず大怪我をすることは無いだろう。おお珍しく幸運だ、と思ったけれど、そんな場合じゃないと思い直した。
「冬休みの鉢雷」
30分!
六年との絡みを書くのが大好きです。何だかんだでみんな仲良し忍術学園。なごむう。
あと、伊作はオチに使いやすくて良いなあ……って思いました。伊作好きです。
今、原稿でおもたーーい話を書いてるので、すごく良い気分転換になりました。
リク有難うございました! 楽しかった!
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