■真っ赤に流れるわたしの血潮■


 中在家長次がまだ一年生だった頃、彼は一度だけ高熱を出して寝込んだことがある。

 目覚めたら身体が尋常でなく重く、頭が痛くて起き上がることが出来なくなっていた。頭とからだの節々が痛い。熱い。意識がはっきりしない。寒い。

 そんな状態の彼を一番に発見したのは、同室の七松小平太であった。しかし小平太は、真っ赤な顔をして浅い呼吸をする長次を見ても、彼が発熱していることにまるで気が付かなかった。丈夫なからだの小平太は、今まで一度も熱を出したことがなかったので、友人の異変が分からなかったのである。

「長次、長次、起きろ! 早くしないと授業に遅れてしまうぞ!」

 そうして小平太は、長次の体調に気付かぬまま、彼を布団から引っ張り出して、無理矢理装束に着替えさせた。長次は何も言わず、されるがままだった。それは熱で意識が朦朧としていたからなのだが、普段から長次は無口なので、小平太も何とも思わなかった。

「ほら、長次、行くぞ!」

 小平太はそう言って、長次の手を引いた。そのときに、友人の手がやけに熱く、汗ばんでいることに気が付いた。おかしいな、とは思った。しかし深くは考えなかった。小平太の思考は、それ以上発展することはなかった。

 結局長次は、食堂で朝食を受け取ろうとしたところで、ばったりと倒れてしまった。その辺りの記憶は長次には無い。ただ、医務室で目を覚ましたら側で小平太がわんわん泣いていたことはよく覚えている。

「長次のばか! ばか!」
 
 何故か小平太は怒っていた。怒りながら泣き喚き、

「もう絶対に熱なんか出すな!」

 と、一方的に長次に言いつけた。長次はまだ重たい頭を動かして、小平太を見た。新野先生が静かにしなさい、と言うのも聞かず、小平太は大声で泣いている。

「分かった」

 長次は小さく答えた。すると、今までの勢いが嘘のように、小平太がぴたりと泣き止んだ。

「……本当か、長次」

「本当だ」

「約束だぞ」

「ああ、約束だ」

 長次が頷くと、小平太は手のひらで乱暴に目をこすり、前歯の抜けた口をめいっぱい開いて笑った。










 そうして彼らは六年生になった。中在家長次は幼き日の約束を守り、あれから一度も熱を出したりしなかった。

「長次! バレーしよう!」

「いや、良い」

「何だよ、付き合いが悪いな! それじゃあ、滝夜叉丸でも捕まえて……」

「……小平太」

「何だ、長次。バレー、やる気になったか?」

「……そうでなくて、腕」

「ああ、これか? かすり傷だ」

「保健室に行って来い」

「そうだな、後でな!」

「……一昨日火傷をしたときも、そう言っておきながら行かなかった」

「だって、本当に大したことが無いんだ! それじゃあ、行って来るな!」

「……不平等だ」

 長次は、ぽつりと呟いた。長次は彼の言いつけを守り、一度も熱を出さずにここまで来たのに、小平太は長次の言うことを、ちいとも聞きやしないのである。

 そうしたら、今にも部屋から飛び出してゆこうとしていた小平太は立ち止まり、長次の方を振り返った。

「何か言ったか、長次!」

 そう言って、笑う。とても眩しい笑顔だった。長次は息を吐いた。そして、首を横に振る。

「いいや、何も」





10分くらいオーバーしました。
あんまりラブっぽくなくてすみません……!
小平太は、長次の異変に気づけなかった自分を悔いてもいるんですが、それは自分の問題なので口には出さず、とりあえずめっさ自分勝手な要求をつきつけてみました、みたいな……。(何だこの頭の悪い文章……)
すみません、何か色々言いたいことがあったはずなんですが、上手いこと言葉になりませんでした。
六ろのふたりも底が見えなさすぎて……大好きです……!!
リク有難うございました!!