■いつでも夢を■
ぼくの腕の中には赤ん坊がいる。産まれてから一年にも満たない乳飲み子だ。性別は男。既に眉がはっきりとしていて、なかなかに凛々しい顔立ちをしている。しかし桃みたいな頬はふくふくとしていて、とても愛らしい。あたたかでやわらかで、何だかやさしい気持ちになってしまう。
……この子は何も、ぼくの子どもというわけではない。図書委員会の後輩、きり丸の仕事を手伝っているだけである。本来ならば、赤ん坊であろうと許可なく外部の者が忍術学園に入ることは許されないわけだが、どうやら、小松田さんが通したらしい。だって、赤ん坊の掌が墨で汚れている。
入門票にサインして下さい! えっ、字が書けない? じゃあ拇印をお願いします!
……容易に想像がつく。ぼくは苦笑して赤ん坊を軽く揺すった。彼は、静かに目を細めた。おとなしい子だ。これなら、子守も楽で助かる。
「雷蔵っ、雷蔵っ、雷蔵っ!!」
やかましい足音と呼び声。五月蠅いのが帰って来た。勢いよく、部屋の障子が開かれる。
「赤ん坊がいるって聞いたんだけど!」
鉢屋三郎である。随分と興奮している。目が輝きすぎて、そのまま光でも放ちそうだった。彼は、赤ん坊や小さな子が大好きなのだ。ぼくは左手の人差し指を口元に当てた。
「三郎、静かにしろよ。赤ちゃんが吃驚するじゃないか」
「あっ、そうか、すまない」
三郎は、慌てて口を閉じた。そして部屋の中に入って来ると、ぼくの腕に抱かれた赤ん坊に視線を落とし、へらりと相好を崩した。
「かっ、わいいなあ……!」
両の拳を握り締め、うっとりと呟く。
「何だなんだ、良い顔をしているじゃあないか。これは将来男前になるぞ。可愛いなあ。可愛いぞお」
三郎ははしゃいだ様子で、赤ん坊の頬を指でつついた。彼はくちびるを尖らせ、嫌そうに顔をそむけた。それでも、三郎は嬉しそうだ。
「嫌か、そうかそうか。可愛いなあ。可愛いなあ。ほら見て、雷蔵、手もこんなに小さいんだよ」
そう言って、三郎は赤ん坊の小さな手をつまんで持ち上げた。ぼくは少し呆れて笑ってしまう。
「そうだねえ、小さいね」
「可愛いなあ。この子、何処の子なんだい?」
「土井先生のお宅の近所の、紙屋さんの子だって」
「そうか、そうか。じゃあ将来は、この手で紙を漉くんだな。偉いなあ。可愛いなあ。可愛いなあ」
「お前、さっきから可愛いしか言っていないじゃないか」
「だって、可愛いだろう。可愛いなあ」
「じゃあ、三郎。お前が抱っこするかい」
何気なくそう言うと、何故か三郎はだらしのない笑みを引っ込めて真面目な顔になった。
「いや、やめておこう」
それはとても意外な返事だった。そこまで可愛い可愛いと言うのならば、その手で抱けば良いのに。この、いとおしい熱を直接感じてみれば良いのに。
そういえば、三郎は出先に赤ん坊の姿があれば、走ってでも顔を見に行く性質だけれど、一緒にいる母親や乳母に抱かせてくれと頼んだことは一度も無い。少なくとも、ぼくは見たことがない。
「……あたたかくて、気持ち良いよ?」
もう一度勧めてみたが、答えはやはり「やめておく」だった。何故だろう。ぼくは首を傾げた。
何か妙なところで30分!
三郎は子どもとか赤ちゃんとか好きそうだなーと思います。
何故、三郎は赤ん坊を抱っこしないのかは、下から選んで下さい。
1.三郎が抱いたら赤子が泣くから
2.儚すぎて抱くのが怖い
3.雷蔵が抱っこしている赤子を愛でる、というシチュが楽しい
4.抱いたら離したくなくなるから
……答えは多分、ぜんぶです!
楽しいお題を有難うございましたー!
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