■なでしこ(綾部)■
肩をいからせて歩くな。歩幅が広すぎる。もっと上品に足を運べ。足音をたてるな。手は前で組め。頭を荒々しく掻くな。鼻を擦るな。足を揃えて座れ。
ああほら、髪が乱れる。折角タカ丸さんが結ってくれてたのに、何をやっているんだお前は。もっとわたしを見習って上品に振る舞え。ほらまた歩幅が広い。そんなに腕を振って歩く女が居るか。もっと考えて行動しろ。
この辺りで切れた。
滝夜叉丸のうんこ、と言い捨てて喜八郎は団子屋を飛び出した。背後で滝夜叉丸が何か喚いていたようだったが、耳を貸さなかった。
店の裏に放り出してあった踏み鋤を掴み、喜八郎は延々穴を掘る。
だいたい、滝夜叉丸は口うるさすぎる。そんな女が居るかと言うが、食堂のおばちゃんは大股で歩くし足音は騒がしいし、腕をぶんぶん振って走ったりしている。そういう女性だっているのだから、自分の女装だってそうおかしくはないはずである。
そんなことを考えながら、固い土を掘り起こすことに没頭した。腹が立っているせいか、作業は随分とはかどった。ひとつ、ふたつ、みっつ。団子屋の裏庭に次々穴が空いてゆく。
「あ、綾部先輩! 駄目ですよ、そんな格好で……うわああっ!」
突然、そんな声が聞こえた。知っている声であった。喜八郎は顔を上げる。しかしそこには誰もいない。あ、落ちたな、と思いつつ喜八郎は穴を覗き込んだ。
「藤内? こんなところで何をしているの」
すると、腰をさすっていた藤内が泣きそうな顔を上に向け、 「綾部先輩、勘弁して下さいよ……」と呟いた。その表情があまりに哀れっぽくてあいらしかったので、喜八郎の内に籠もっていた怒りは少し薄れた。
「今、そちらに行くね」
そう言って、喜八郎はひらりと穴の中に飛び込んだ。身体の下で、藤内が潰れた蛙みたいな声をあげる。
「やあ、藤内」
彼の顔をよく見ようと、鼻が擦れそうなところまで顔を近づけた。藤内は怯んだように、頬を引き攣らせる。その頬にかぶりつきたいなーと思ったところで、藤内が口を開いた。
「綾部先輩、滝夜叉丸先輩が呼んでいましたよ」
それで、一気に面白くない気分になった。藤内は、滝夜叉丸に言われて来たらしい。なんて奴だ。藤内を使うなんて卑怯にも程がある。今度からあいつのことは、卑怯夜叉丸と呼ぼう。
「わたしは戻らないよ。滝夜叉丸、うるさいんだもの」
そう言うと、藤内は困り顔になった。喜八郎はこの顔が好きだ。もっと困らせたくなる。ふたりの先輩に挟まれて、かわいそうでかわいい藤内。
「……滝夜叉丸先輩、さっきは言い過ぎた、っておっしゃってましたよ」
少し考えるような素振りを見せたのち、藤内は言った。その際に、彼が右手をぎゅっと握るのを喜八郎は見逃さなかった。それは彼が嘘をついたり隠しごとをしたりするときの癖であった。
「嘘ばっかり」
即答すると、藤内は「えっ?」と目を瞬かせた。どうしてばれたんだろう、という顔である。分かりやすくてかわいい藤内。
「藤内は嘘をついたらすぐに分かる」
「えっ、ええっ?」
藤内は動揺をあらわにした。どうして分かったのか教えて欲しそうな表情である。本当に、分かりやすくてかわいい藤内。だけど今は教えてやらないことにした。彼の嘘が分からなくなったら、詰まらない。
時間切れ……。
と、特にオチをつけることが出来ないまま、終わることをお許し下さい……!
綾部は終始藤内に萌えていれば良い、と思いました。
何やってても、藤内は綾部のかわいいちゃんです。
そういうことでひとつ。
綾浦なのか四い話なのかすら分からなくなってしまいましたが、リクありがとうございました!
やっぱ綾浦たのしー! です!
戻
|