※三郎が狐です。
※というかすみません……! リクの「お狐様」の「お」と「様」をすっ飛ばして書いてしまいました……神様的なアレでなく……ただの狐です……!
■昼寝は大事■
別に化かそうと思ってやっているわけではない。ただちょっと、気を抜くと耳やら尻尾やらが出てしまって、それを見た人間が勝手に驚いてやれ妖怪だ、やれ化かされたと騒いでいるだけである。
そうしてどんどん生きにくくなってゆくのに、同胞たちが人間に化けるのを止めないのが、三郎には理解出来なかった。二本足で歩けるのがそんなに良いものだろうか。あんな風に鬱陶しそうな布を纏って、のろのろとしか動けない身体はそんなに魅力的だろうか。
三郎はこのままで満足であった。身軽で何処まででも駆けてゆけそうな身体も、ぴんとした耳も、豊かな尻尾も全部お気に入りだ。人間に化けようなんて一度も考えたことがない。
しかし兄たちによると、それは貧相な考え方であるらしい。お前も一度人間に混じってみるといい、あれほど愉快な生き物はいないから、と何度も言われる。その愉快な生き物が、自分たちを罠にかけたり火縄で撃ったりするのだというのに、兄たちは何も分かっていないと思う。
そんなある日、三郎は山で迷子になった人間の子どもを見付けた。
「うっ、うああ、あああ、父ちゃあん、母ちゃあん」
実に耳障りな泣き声であった。頭の底にきんきんと響く。普段なら人間を見掛けても無視して放っておくのだが、今回はそうはいかなかった。子どもの腰かけている岩が、三郎のお気に入りの昼寝場所なのである。日当たりも風通しも最高の場所で、そこを人間の子どもに占拠されているなんて、あってはならないことだった。
出て行って少し脅かしてやろうかと思ったが、そうするとこの子どもは更に泣き喚くに違いない。三郎は一刻も早くこの甲高い泣き声を消し去りたかったので、嫌々ながら人間の子どもに化けることにした。その姿で山の麓まで案内してやれば、あの子どもも泣き止むだろうし、三郎は誰に邪魔をされることもなく昼寝をすることが出来る。
そういうわけで、三郎は生まれて初めて人間に化けた。顔を考えるのが面倒だったので、大きな葉っぱで作ったお面をかぶった。その姿で、泣きじゃくる子どもの前に進み出る。
「う、あ……?」
子どもは三郎の姿に気付いて、泣き叫ぶのを止めた。それで、三郎は少しほっとした。あんな声で泣き続けられたらたまらない。
子どもはべしゃべしゃに濡れた顔を上げた。兄の誰かが、人間の子どもはなかなかに愛らしいと言っていたが、ちっとも可愛くなんかなかった。ただ、頭の高いところで結わえられたふさふさの髪の毛が少しだけ自分の尻尾と似ていて、そこだけは良いなと思えた。
「きみ、誰……?」
子どもは首をかしげた。その拍子に、目尻に溜まっていた涙がぱちんと弾けて頬に落ちた。
「迷ったの?」
子どもの質問には答えず、逆に三郎はそう問い掛けた。子どもがこくんと頷く。
「それなら、麓まで連れてってあげる」
三郎は言って、子どもに向かって手を伸ばした。子どもは丸くて大きな眼を瞬かせた。
「本当?」
「本当」
だから早くそこから退けよ、と思いつつ更に手を子どもに近づけた。子どもはその手を取ろうとしたが、触れ合う直前になって動きを止めた。それから、何かを考えるような顔になる。
「……でも、迷子になったらその場所から動くな、って父ちゃんに言われてるし……」
そんなことを言って、子どもは三郎のお気に入りの場所から動こうとしない。三郎の中に苛立ちが生まれた。
「それじゃあ、ずっと此処に居るの? このまま、父ちゃんや母ちゃんとずっと会えなくなるかもしれないよ」
「ずっと……?」
子どもの双眸に涙の膜がぶわりと浮かび上がり、三郎は、しまったと思った。案の定、子どもは再び大声で泣き始める。
「うああああ、あああ、ああ、あああっ!」
30分経ちました! あれっ全然ラブが生まれてない!
ていうかこれ完全にオリジナルですよね、すみません……!
パラレル設定って難しいですね。キャラの個性を残しつつ、上手いことパラレル書かれる方々は凄いなあ。
この後、三郎はこのグダグダでグズグズな雷蔵をどうにかして両親に引き渡し、あーもうめんどくさかった!! 人間まじうざい!! とか思いつつ狐ライフを送るんですが、五年後くらいに何らかのピンチを迎え、それを成長した雷蔵に助けて貰う……というのを考えました。
だから、30分企画で長編になりそうな話を考えるなというのに……!
もうこれは性分ですね、はい。
そういうわけで、中途半端ですみません! お狐様じゃないし!
新鮮なお題をありがとうございました!
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