■なぞなぞ■
・鉢雷+仙蔵
・仙蔵とのちゅー描写があります。CPでは無いですが、駄目そうだったらブラウザバックで……!
廊下で立花仙蔵先輩とすれ違ったので、「こんにちは」と挨拶をしたら「お前はどちらだ」と尋ねられた。そんな返事があるかと多少鼻白んだが、素直に「不破です」と答えた。そうしたら立花先輩は白い手を伸ばし、ぼくの顔をべたべたと無遠慮に触ってきた。
そうして一言。
「不破だな」
だからそう言っているじゃないか、と思ったところで先輩はさっさと歩いて行ってしまった。ぼくは呆然とその細身の後ろ姿を見送る。
何だったのだろう、今のは。
また別の日、今度は食堂の前で立花先輩とすれ違ったので、「こんにちは」と言ったあと、「あの、ぼくは不破です」と付け加えた。そうしたら立花先輩はかるくわらって、手のひらでぼくの頬をなで回した。冷たい指に、背中がぞくぞくする。
で、立花先輩は一言。
「不破だな」
端からそう言っているじゃないか、と思ったところで立花先輩はすうっと食堂の中に吸い込まれて行った。ぼくは呆然と、翻る黒髪を見つめる。
……だから何なんだ、一体。
またまた別の日、焔硝蔵から出てきたところの立花先輩に行き会ったので、ぼくは何も言わず顔を守るように身構えた。そうしたら立花先輩は目を細め、身を屈めると思い切りぼくの足を払った。まさかそう来るとは予想していなかったので、ぼくは思い切りひっくり返ってしまった。無様に地面に転がるぼくの顔を、立花先輩はさわさわと触りまくる。
そして、一言。
「不破だな」
今日は続きがあった。
「先輩に会ったのだから挨拶くらいしなさい」
ぼくは倒れ込んだまま、「……こんにちは」と言った。立花先輩は軽く頷くと、そのままぼくを放って立ち去った。ぼくは呆然と、軽やかな足運びを目で追いかける。
本当に、何なんだ、一体!
……という話を三郎にしたら、彼はとても苦い顔になった。そして小さく呟く。
「許すまじ」
いや、そこまでの大事じゃないと思うのだけど……とぼくが言うより早く、三郎は立ち上がって部屋から出て行った。一体、何をするつもりだ。ぼくは慌てて後を追う。
三郎は大股で六年長屋に向かって歩いてゆく。そうしたら、長屋の手前に立花先輩の姿が見えた。三郎は歩調を緩めて、笑顔を浮かべた。
「立花先輩、こんにちは」
すると先輩は「どちらだ」と訊いた。三郎は「不破です」と答えた。ぼくはその後ろで、はらはらしながらも何も言えず突っ立っていた。
直後、立花先輩は何を思ったのか、無言で三郎の顎をとらえるとその唇に吸い付いた。
ぼくは固まった。三郎も、まさかそんなことをされるとは思っていなかったのだろう。よけたり抵抗したりもせず、されるがままだった。その背中が衝撃に強張っている。立花先輩は三郎から離れると「嘘はいけない」と微笑んだ。
それから、先輩はぼくの前に立った。もしや三郎と同じことをされるのではという恐怖に、ぼくの喉をひゅっと音を立てて空気が通り過ぎて行った。
立花先輩はぼくに向かって手を伸ばす。ぼくは動けない。先輩は真新しい火傷の痕がある手のひらでぼくの顔に触れ、頬から額、鼻や瞼を揉むようにして触った。
それから、おきまりの一言。
「不破だな」
あなたは何がしたいんですか、と思ったところで立花先輩は身体の向きを変えて用具倉庫の方へと歩いて行った。
ぼくは、いや、ぼくたちは、その涼しげな姿を呆然と見つめた。
あのひとは、一体、何なのだろう。
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