■もし三郎と雷蔵が関西弁だったら■


「雷蔵、昼飯決まった?」

 三郎は、雷蔵の肩を叩いた。いとしい彼は、今日も食堂の品書きの前でうなり声をあげている。

「……ちょお待って……」

 物凄く真剣な声が返ってきて、三郎は軽く笑い声をあげた。雷蔵は、どんな些細なことでも真面目に悩む。三郎は、そんな彼のことが好きだった。

「ええよ、ゆっくり考えて」

「何やったら三郎、先行っといて」

「良いって。ほら、不破雷蔵あるところ、鉢屋三郎ありやし」

 自信を滲ませてそう言うも、雷蔵は「ああー……こっちにしょっかなあ……」と、昼食の献立を決めるのに必死で、三郎の言葉はまるで耳に入っていないようだった。三郎はついつい、たたらを踏んでしまう。

「……なあなあ、雷蔵」

「うん、何?」

「今おれ、決め台詞的なものを言うてんけど、聞いてた?」

「え、ごめん。聞いてんかった」

 雷蔵は目をぱちぱちさせた。三郎は肩を落とす。結構、かっこよく言えたと自負していたのに、完全に外してしまった。なんという空しさだろう。

「聞いてんかったかあ……」

「……ごめんやで?」

 雷蔵は、おろおろしながら言った。その言い方がとても可愛かったので、許そう、と思った。

「……うん、ええねん」

 ほんの少し潤んだ目尻を拭って顔を上げる三郎に、雷蔵はこんなことを言った。

「何やよう分からんけども、唐揚げ定食に決めたから、いっこ三郎にあげるな」

 そして、彼はすたすたと食堂の中に入ってゆく。三郎は彼の後を追いつつ、胸に手を当てた。そこが、きゅうんと鳴っている気がする。

「……やっぱ、好きやわあ」

 しみじみ呟くと、雷蔵がこちらを向いた。そして、短く尋ねる。

「唐揚げが?」

「雷蔵が!」

 三郎は語気を強くする。雷蔵は微笑んで、前に向き直った。そして、出鱈目な節で歌い始めた。

「ぼくはー、唐揚げがー、めっちゃ好きーいー」

 三郎は唇を尖らせた。そんな風にかわされたって負けへんで、と心の中で闘志を燃やす。いつか、ぼくは三郎がめっちゃ好き、と歌わせてやるのだ。その日まで絶対に諦めない。

 三郎と雷蔵は、ふたり揃って注文の列に並んだ。雷蔵は「……やっぱトンカツにしょっかなあ……」と、また迷い始めた。そこに、食堂のおばちゃんの大きな声が降ってくる。

「お残しは許しまへんでええ!!」




ヤマもオチも意味もないのさ。
ごめんやで、って雷蔵さんに言わせたかったんです。
方言大好きなので、皆さんの地元の方言を喋る鉢雷が見たいです。ご当地鉢雷。