■五年生の46巻大反省会!■
本日の議題 雑渡昆奈門雪辱戦の敗因について
「三郎が悪い」
「三郎が悪い」
「鉢屋が悪い」
兵助、八左ヱ門、勘右衛門はまっすぐに三郎を指さした。見事な意見の一致ぶりであった。もうこれ以上の議論は必要無いのではないか、という勢いである。三郎に冷ややかな視線を送る三人の横で、雷蔵は「あ……あはは……」と苦笑いを浮かべていた。
彼らの責めを一身に受けた三郎は、焦るでもなく怒るでもなく、堂々たる居住まいで腕を組み、目を細めた。
「ほう。理由を聞こうか」
そんな彼の頭を、八左ヱ門が拳でぽこりと叩く。
「何かっこつけてんんだよ! どう考えても、お前の暴走が全てだろうが!」
そこに、勘右衛門の悲痛な叫びが重なった。
「十六年ぶりの、おれの出番だったのに!」
すると三郎は、「あーもう分かってないなあ!」とじれったそうに言い、拳を握り締めた。
「阿呆かお前ら。おれの雷蔵が敵の卑劣な手にやられたんだぞ。あそこで怒らず、何処で怒るというんだ!」
「い、いや、三郎。卑劣っていうか、勝負の途中で迷い始めたぼくが悪いんだし……」
「それに、雷蔵だって瘤が出来て鼻血が出たくらいで、大した怪我でもなかっただろう。なのに我を忘れるなんて、不敗神話が聞いて呆れる」
いたたまれない様子の雷蔵の後を引き継ぎ、兵助が溜め息混じりにそう言った。八左ヱ門と勘右衛門も、彼の言葉にうんうんと頷く。三郎は斜に構え、顎に手を当てた。
「けして完璧超人でなく、人間らしい未熟さを残しているところが、鉢屋三郎の人気の秘訣だ」
そんな彼の頭を、今度は兵助と勘右衛門が両側からぴしりと平手で叩いた。
「自分で言うな、自分で」
「十六年ぶりの、おれの出番だったのに……」
せつなげな勘右衛門の呟きに、八左ヱ門が「おい」と口を挟んだ。
「勘右衛門お前、さっきからそれしか言ってないじゃん」
「だって、本当に、十六年ぶり……」
「勘右衛門、あんまり十六年十六年って言うなよ」
今度は三郎が、真剣な口調で言った。勘右衛門は、きょとんとして目を丸くする。
「何で?」
「おれたちは今、一体何歳なのかを考えろ」
「何歳って、十四……あっ」
はっとした表情で、勘右衛門は口元を押さえた。微妙な沈黙が場を支配する。
「……も、もし次があるなら、どうやって戦う?」
取り繕うような笑いとともに、雷蔵が静寂を明るく破った。
「三郎の手の内がばれてる、っていうのは痛いよな」
八左ヱ門が、身を乗り出して発言する。その隣で、兵助も同意するように首を縦に振った。雷蔵が、心配そうに口を開く。
「ぼくの弱点も筒抜けだし、もし今後、タソガレドキと忍術学園が戦でもすることになったら、どうなるだろう」
そんな彼を安心させるように、三郎が爽やかな笑みを浮かべてこう言った。
「まあ、伊作先輩がいる内は、あの忍組頭は手を出して来ないだろうし」
「何だ。じゃあ、永久に大丈夫じゃん。なんせ、ずっと卒業しな……あっ」
先程と同じく、勘右衛門は途中まで言って口を塞いだ。ふたたび、言葉では言い表せない空気が流れる。
「……勘右衛門、お前さっきから迂闊な発言が目立つぞ」
八左ヱ門は若干の怒りを含んでそう言って、勘右衛門の腕を肘でつついた。
「ご、ごめん。十六年も空白の期間があると、どうにも調子がつかめなくて」
「だから、あんまり十六年とか言うなって……!」
「ごっ、ごめ……っ! え、ええと、手の内がばれたといえば、八左ヱ門と兵助もじゃないか? 虫と火薬。自滅したけど」
「あのとき爆発に巻き込まれた虫は、ちゃんと生物委員会で埋葬しました」
八左ヱ門は目を潤ませ、合掌した。
「じゃあ、手の内が敵に知られてないのって……勘右衛門だけ?」
ぽんと手を叩き、雷蔵は目を丸くした。兵助も、「あっ、そうかも」と言って指を立てた。
「おおっ、流石新キャラ! 無限の可能性!」
そう言って、八左ヱ門は勘右衛門の背中をばちんと叩いた。
「じゃあ勘右衛門は、対雑渡昆奈門の秘密兵器ということで」
にこにこ笑って、三郎は勘右衛門の肩に手を置いた。
「ほ、本当に?」
「そうだよね、もしかしたら滅茶苦茶強い、って設定かもしれないもんね」
うんうん、と雷蔵も首を縦に振る。
「そう? そうかなっ?」
とたんにそわそわしだした勘右衛門に、兵助が小さな声でこう呟いた。
「でも、学園内で不敗神話を持つ三郎よりは弱いだろうから、雑渡昆奈門に勝てるかって言われると……」
「兵助、空気を読みなさい」
八左ヱ門は兵助の言葉を途中で遮り、小さな子を叱るように彼の額をぺちりと叩いた。
「はい、ごめんなさい」
兵助は素直に謝り、口を閉じた。
しかしそのやり取りは幸い勘右衛門には聞こえていなかったらしく、彼は夢見がちな表情で、 「秘密兵器……秘密兵器かあ……」 と、うっとり呟いていた。そこに、三郎が楽しそうに声をかける。
「そうそう。忍術学園の未来は、お前の双肩にかかってるぞ」
「えっえっ、そんな大役担っちゃって良いの?」
「うんうん、勘右衛門はこれまでに苦労したんだから、ちょっとくらい目立った方が良いよ」
雷蔵も、笑顔で頷く。勘右衛門は目を輝かせ、拳を握り締めた。
「ありがとう! おれ、頑張るよ! 出られなかった十六年分、活躍してみせるよ!」
勘右衛門の高らかな宣言に、他の四人はみたび黙り込んだ。その空気に気付いた勘右衛門が、はっとした表情になる。
「えっあっ、ごめ……っ! 十六……じゃなくて、あの、その」
勘右衛門は、すっかりしどろもどろであった。どんどん声が小さくなる。
「お前、いい加減にしろよ!」
「何回目だよ!」
「ぼくも一生懸命、ぼかした表現を使ったのに!」
「ふざけんなてめー!」
いい加減怒りが臨界点に達した四人は、わあわあと抗議の声をあげながら、手元にあった団子の串やら紙くずやらを勘右衛門に向かって投げた。
「ご、ごめんってば! ていうかそんな、時間軸の矛盾なんて今更……ちょ、痛、痛い! 顔はやめなさい、顔は! ちょっと! おい!」
……とかなんとか、完全に主題が横滑りしつつも、今日も忍術学園五年生はみんな仲良く楽しく元気なのだった! 良かった良かった!
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